PHOTO ESSAY -68-  動物の形づくりと進化




研究室にいる動物たち
Animals in our Laboratory

文/写真・赤坂 甲治
(AKASAKA, Koji)
大学院理学研究科
生命理学講座教授

キイロショウジョウバエ(旧口動物、節足動物門:体づくりにかかわる遺伝子の機能を遺伝学的に解析するのに適す)
 この地球上には実にさまざまな動物たちがいます。海の中でひっそりと生きているナマコやウニ、地上を闊歩している哺乳類、大空を飛ぶ鳥類。この多様な動物たちの起源は、実は1つであり、今から5億7千万年前の先カンブリア紀の動物から進化してきました。当時の動物はすべて微小であり、海の中で暮らしていました。想像してみてください。それが、私たちの祖先なのです。 最初の動物は、一層の細胞からなる球形でした。体に付着した物から栄養を吸収していましたが、体の一部にくぼみをつくり、そこに食べ物をとらえ、栄養を吸収し尽くすと吐き出すようになりました。その当時の体を今に残しているのが、イソギンチャクやクラゲです。へこみの部分は、私たちの消化管に相当します。次に、へこみが反対側まで到達すると、消化管の片方(口)から食物を取り入れ、反対側(肛門)から排出するようになり、栄養摂取の効率が高まりました。最初にへこみができた所を肛門とした動物が、私たちヒトを含めた新口動物と呼ばれるグループです。一方、最初のへこみを口とした動物が、昆虫やミミズなどが属する旧口動物と呼ばれるグループです。 最近、先カンブリア紀の地層から胚(受精して発生を始めたばかりの個体)の化石が発見され、それらは今、地球上に生きている棘皮動物(ウニなど)の胚とよく似ていることが示されました。また、棘皮動物は従来の形態学的分類により、さらにはゲノム解析による分子系統学的分類により、最も古い新口動物とされています。したがって、棘皮動物は私たちの祖先のボディープラン(体づくりの設計図)を継承する、生きている化石ということもできます。 祖先型動物の遺伝子や、先カンブリア紀に新口動物グループと分かれたショウジョウバエの遺伝子を調べてみると、原始の海に棲息していた微小な動物も、ヒトの体づくりにかかわる遺伝子のほとんどすべてを獲得していたことがわかります。同じ遺伝子をもちながら、単純な動物から複雑な動物まで形づくるしくみは何なのでしょうか。私たちは、さまざまな動物のゲノムを解読し、遺伝子機能を解析することにより、進化の機構を明らかにしようとしています。
研究室のホームページ:
http://www.mls.sci.hiroshima-u.ac.jp/smg/

バフンウニ(新口動物、棘皮動物門:体づくりにかかわる遺伝子の機能を生化学的に解析するのに適す)

アフリカツメガエル(新口動物、脊椎動物門、両生類:体づくりにかかわる遺伝子の機能を胚操作により解析するのに適す)

ヒト(新口動物、脊椎動物門、哺乳類:体のさまざまな部分が退化した動物;好奇心旺盛;争いごとを好む;爆発的に繁殖している)



広大フォーラム2003年4月号 目次に戻る