大学と遠隔教育
(eラーニング)
文・西 谷  元
 
( NISHITANI, Hajime )
情報通信・メディア委員会委員
法学部教授

 eラーニングとは、コンピュータやネットワークなどの情報技術を使った新しい学びの形態の総称です。特徴的なキーワードとしては、「いつでも・どこでも」、「個別学習」、「学習者の主体性」、「進捗管理の容易さ」、「教材の蓄積と再利用」、「弱点の把握と補強」などが挙げられます。高等教育機関・研究機関である大学においては、例えば「多様な授業の提供」、「授業の補完」、「複数キャンパスの一体化」、「生涯学習など教育機会の提供」などを単独又は複数大学で、更には企業等との連携によって運営していくことが考えられます。その実施にあたっては、プラス面ばかりでなくマイナス面を理解した上で、継続的な教材の開発、リテラシー向上の支援、運用面や評価体系の整備、効果の測定、*インストラクショナルデザイナーの育成、著作権の処理などに取り組んでいく必要があります。

 

 現在、文部科学省においては、遠隔教育を推進させるための一事業として「高等教育IT活用推進事業」を実施しています。本学では、この事業の前身である「バーチャルユニバーシティ推進事業」から参加しており、現在、全国の六大学、六高専及びメディア教育開発センター(NIME)と共同でこの事業に取り組んでいます。この事業では、長岡技術科学大学、北陸先端科学技術大学院大学及び豊橋技術科学大学に遠隔教育用サーバシステムを設置し、参加機関同士をネットワークで結んだ実験フィールドが構築されています。この事業は三つのユニットから構成されていますが、「遠隔教育実施」ユニットでは、このネットワークを利用して遠隔教育用コンテンツ等を配信する計画です。「留学生フォローアップ」ユニットでは、留学前学生や帰国留学生を対象にITを活用して様々なフォローアップを行うことを計画しており、本学はこのユニットの幹事校に指名されています。
 今後、「遠隔教育実施」ユニットで情報メディア教育研究センターの岩崎助教授や総合科学部の先生方を中心とした「外国語教育」(http://flare.
media.hiroshima-u.ac.jp/)及び「留学生フォローアップ」ユニットで教育学研究科の水町教授を中心とした「日本語教育」(http://home.hiroshimau.ac.jp/
nihongo/VU/VU.html)に関するコンテンツ教材の開発や利用モデルの構築などを推進させていく計画です。これに関連して、従来から開発してきたコンテンツの紹介を兼ねて、年一回、「バーチャル・ユニバーシティ・フォーラム」を開催しています。昨年度は社会科学研究科マネジメント専攻の松川教授をお招きして「著作権」に関する招待講演を企画しました。今後も状況が許せば、継続的に開催する予定です。
 遠隔教育(eラーニング)でどのような教育内容を提供するのが効果的なのかについては、いろいろと議論があります。一般に、教育の質を志向するとコンテンツ教材作成のコストは高くなり、また、遠隔教育(eラーニング)を求める学生の要望を見極めないと、費用・時間をかけたのにもかかわらず、利用されずじまいという危険もはらんでいます。本学での遠隔教育(eラーニング)の位置付け、利用形態などについては、情報通信・メディア委員会の検討段階では、本格的に実施するためには、個人によるコンテンツ教材の作成は困難であり、遠隔教育(eラーニング)のための組織の構築、インストラクショナルデザインの専門家の配置や経費投入が必要であるとの報告がなされています。
 なお、今後、遠隔教育(eラーニング)による他大学との単位互換に関して、本学としての取り組み方などを含めて、検討が開始される予定です。

*インストラクショナルデザイン
 遠隔教育(eラーニング)において最適な教育効果をあげるため、教材や評価方法などを系統的に開発すること。

[問い合わせ先]
 hajime@law.hiroshima-u.ac.jp



広大フォーラム2003年8月号 目次に戻る