広島大学では、将来的に情報を共有することをめざして、電子化を一層促進する計画*が立てられてきており、既にその一部は実施に移されています。本来は、それらのすべての動向を紹介する特集を考えていましたが、『大学法人化』との関係で、現時点において大学全体の統一された電子化構想を示すことは困難であると判断し、その一部である学生情報システム「もみじ」を中心とした特集とすることにしました。
 「もみじ」については、利用者である学生と教員の方々の意見を伺い、その『良いところ』と『良くないところ』をまとめてみました。そして、いくつかの質問について、開発者側の北村先生に回答して頂いています。
 また、「もみじ」などを支える根幹的なシステムであるHINETならびに、一般的な『セキュリティ問題』について相原先生にまとめて頂き、さらに、現在は「もみじ」と直結してはいないものの、電子化の動向が注目される附属図書館について、紹介しています。
*例えば、ERP(統合基幹業務システム)の導入によるサイバーオフィス化計画や、バーチャル・ユニバーシティアクションプランなど。


文・北村 充
(KITAMURA Mitsuru)
学生情報システム開発・
運用プロジェクト 会議副座長
大学院工学研究科教授
1.現在の「もみじ」がもつ機能
 学生情報システム「もみじ」は、平成十二年度からの三年計画により、入学者・在学者管理サブシステム(十二年度)、カリキュラム・履修・成績・試験情報・就職管理サブシステム(十三年度)、コミュニケーション支援(電子掲示板)・教員免許・奨学事務サブシステム(十四年度)を開発してきました。「もみじ」開発のために平成十一年度に発足した「学生関係データオンライン化ワーキンググループ」は昨年度末の開発期間終了と共に解散しました。開発された「もみじ」を管理・運用するために、さらには新しい機能を追加してより充実した学生情報システムに進化させるために、「学生情報システム開発・運用プロジェクト会議」が今年度四月に発足しました。本プロジェクト会議は教育担当副学長を座長とし、教務、教養的教育、学生生活、情報通信・メディアの各種委員会代表者、事務関係者と座長により指名された教職員により構成されています。まず、現在の「もみじ」が有する機能を開発年度ごとにまとめ、次に説明します。

1−1.第一次開発分(入学者・在学者管理サブシステム)
 入学から卒業までの学籍情報や成績情報等を一元管理するためのサブシステムが平成十二年度に開発され、十三年度から稼働しています。以前、学生の情報は学部等事務室にて管理され、チューター等の指導的教官、学科等の教育担当組織、保健管理センター等の他部局からの要請により、必要な情報を提供してきました。一方、教官や教育組織は学部等事務室から受け取った情報や独自に収集した情報に基づいて学生情報のリストを作成し、学生指導に利用してきたと思われます。このように、本来は唯一である学生情報が二つ以上のデータとして独立に存在していたことにより、実際に学生を指導する末端の教官が最新情報を入手し難い状態でした。従って、住所等の学生情報が更新された場合、住所変更届が学生により所属する学部等の事務に提出されても、その変更は教官や教育組織のデータにすぐには反映されず、古い情報を使用し続けるケースもありました。このような問題点を解決するために、「もみじ」は学籍や成績等の情報に関する一元的データベースを構築し、学生指導に関係する教官や事務官は必要な情報をいつでも入手できるようにしました。所属する学部等の事務で「もみじ」データベースに入力された最新情報は、権限を有する教官や事務官にリアルタイムで反映されています(以上、図1を参照)。そのためにも、学生の皆さんは、住所等の個人情報に変更が生じた場合には、速やかに担当係まで届け出することが重要になります。私は夏期実習の担当教官をしており、この原稿を作成中の現在、実習先決定に関して学生への緊急連絡が必要になります。「もみじ」に掲載されている携帯電話番号に連絡したところ、番号が変更になっており、適切な指導ができないこともありました。正しい学生情報が登録されていないと、このように学生自身が不利益を被ることもありますので、個人情報が変更になった場合には、必ず担当係まで届け出ることが必要です。個人情報の変更に関する届け出先は「もみじ」ログイン直後の「お知らせ」のページにリンクされています。

図1 学生情報の一元的な管理(入学者・在学者情報管理サブシステム)

1−2.第二次開発分(カリキュラム・履修・成績・試験情報・就職管理サブシステム)
 平成十四年十月から稼働した本サブシステムにより、学生はネットワークに繋がっているコンピュータから履修登録することになりました。学生が履修科目を登録するごとに「もみじ」のデータベースは更新されるため、教官は受講学生の総数や氏名をリアルタイムで把握できます。また、データベースに登録されている学生リストに従った受講者名簿を、PDFファイルやCSVファイルとして入手することができます。これにより、入手するまでに一ヶ月程度かかっていた受講生名簿を、履修登録期間終了直後から利用することが可能になりました。「もみじ」による最初の履修登録では、システムの調整不備のため履修者が確定するまでに四週間弱という長い期間を費やしてしまいましたが、その後のシステムの再調整、データベースサーバーとウェブサーバーの増強により、平成十五年度前期の履修登録では、学期開始後の約二週間で履修登録を完了することができました。また、成績確定後のある時期から、学生は「もみじ」により成績の確認ができます。学生が、チューター(指導教官)による指導を受けるようにするために、チューターとの面談後に学生による成績確認が可能になるような仕組みにしています。
 平成十四年度後期からシラバス登録と成績入力のサービスが開始されました。教官によるデータベースへの直接登録と即刻利用が可能になり、学部事務等による確認・編集に関する作業が大幅に削減されます。その結果、今までと比較した場合、成績の確定時期は二週間程度早くなり、これに伴って成績発表や次学期の履修登録が早期に実施でき、学生の履修計画や教官の履修指導が余裕をもってできるようになりました。
 また、学生に対する求人情報、および就職状況も提供されています。学生は希望する就職分野を登録することにより、関連する企業等の求人情報を電子メール等により入手できます。しかし、学生自身による進路希望等の入力が必要になります。このような機能を十分に活用していただきたいと思います。

1−3.第三次開発分(コミュニケーション支援・教員免許・奨学事務サブシステム)
 電子メールや携帯電話等の有効活用による学生へのコミュニケーションサービスの強化、教員免許関係の申請資格判定および申請業務の自動化、奨学生管理事務の自動化を受け持つサブシステムです。このサブシステムは平成十四年に開発され、現在は機能検証のための最終段階であり、八月から順次稼動を開始する予定です。
 コミュニケーション支援サブシステムには、講義別BBSと電子掲示板が組み込まれています。講義別BBSとは、皆さんがインターネット上でよく見かける「掲示板」と同様のものです。これを授業科目ごとに設置し、教官と学生が授業に関する意見交換をすることを可能にします。一方、「もみじ」の電子掲示板とは、学内に設置されている「掲示板」の電子化版です。教官や事務官から入力された掲示情報を学生が閲覧するためのシステムで、広島大学の多くの学生が頻繁に利用すると思われます。お知らせや学生呼び出しなどの一般情報のみならず、休講や補講、教室変更などの授業に関連する情報を、関係する学生のみに提供します。また、アルバイト等の学生生活に関する情報も提供されます。現在は紙により貼り出されている掲示物も、近い将来には、電子掲示板に移行することになるでしょう。身近な所にネットワーク接続されたパソコンを持たない学生を考慮して、携帯電話からのアクセスもできるようにしています。全ての学生が自宅や学内のあらゆる場所から、電子掲示板に書かれている情報を入手することが可能になります(図2を参照)。
 教員免許を取得するためのシステムは複雑であり、それを支援するために教員免許サブシステムが開発されました。このシステムの利用により、学部担当係は教育実習受講や教員免許状出願に関する処理を実施できます。また、学生は教員免許状の種類・教科に対応した科目区分で取得済科目や単位を確認できます。
 日本育英会奨学生の登録・修正・削除、学生検索、奨学団体検索、学業成績データ作成などの事務処理を支援するために、奨学事務サブシステムが開発されました。

図2 電子掲示板(コミュニケーションサブシステム)

2.「もみじ」を支えるシステム
 ネットワークに接続している全てのコンピュータから「もみじ」にアクセスできますが、それはHINETという広島大学の基幹ネットワークが全世界のネットワークと接続しているからです。また、「もみじ」自身もそうですが、学生や教職員が使用する情報メディア教育研究センター端末室や各研究室のコンピュータもHINETにより広島大学のネットワーク内の一つのコンピュータとして管理されています。
 ネットワーク上で個人を特定する必要があるシステムに入るためには、正しい「ユーザー名」と「パスワード」を入力しなければなりません。これらの情報が第三者に知られてしまうと、大切な情報の漏洩、改竄などの被害が発生します。このような不正利用の防止やプライバシー保護のために、「全学電子認証システム」が導入され、本人を確認する情報を一元的に管理しています。「もみじ」における個人認証も「全学電子認証システム」により支えられています。
 平成十五年の春から情報メディア教育研究センターがVPN(Virtual Private Network)サービスを開始しました。これは、一般プロバイダや他大学など学外のネットワークに接続した状態でも、広島大学への通信が学内と同等の環境で実現され、「広島大学の学内限定ページの閲覧」「広島大学のメールアドレスでのメール送受信」などを利用できるようになります。「もみじ」が有する情報の重要性とセキュリティーを考慮すると、「もみじ」へのログインは学内からのアクセスに限定することが望ましいと思われますが、このVPNサービスを通じて、学内からのアクセスに限定しても広島大学の構成員による学外からのログインが可能になります。

3.将来の「もみじ」のイメージ
 学生および教職員に対する情報サービスの充実は、教育・研究・事務の生産性を向上させ、かつ、省力化を推進します。三年計画で開発された「もみじ」は、学生サービスの支援を目的とした事務手続処理を柱として教務・厚生関係処理のほとんどをオンライン化し、その効果が期待されます。しかし、「もみじ」は現段階で留まることなく、教育の質的転換と向上を目指して、更なる革新的情報サービスの提供を可能とするシステムへの進化が必要です。教育支援や学生支援の充実を効率的に行うために、「もみじ」は学生向けの総合的な情報提供システム(キャンパス・ポータル)となるべく整備・充実を検討しています。学生情報システム開発・運用プロジェクト会議において検討している、教育や学生生活を支援するために有効、かつ、整備可能と考えられる項目を次に列挙します。各項目は必要性や有用性が認められた後に、緊急性や周囲の状況等に応じて、順次開始できればと考えています。

3−1.学内供用施設管理
 講義室や体育施設、課外活動施設などの学内供用施設を有効利用するためのスケジュール管理を行い、学生・教職員がオンラインで利用状況照会や利用予約を行えるように検討します。

3−2.授業自動出席管理
 数百人もの受講生がいる授業では、学生の出席状況を確認するだけでも、大変な作業になります。各教室の入口に設置したカードリーダに学生証を読ませて出席を登録・管理するシステムを検討します。各授業の出席状況をリアルタイムで把握し、授業開始時から担当教官へ情報を提供できます。さらに、出席状況が悪い学生を自動的に抽出しチューターなどへ情報を提供することも可能になります(図3を参照)。

図3 学生の授業出席管理機能

3−3.授業評価アンケートのオンライン化
 平成十四年度前期に、学生による授業評価アンケート調査を全学的に行い、平成十五年度からは前後期を通じてアンケート調査を行うことになりました。評価委員会からの要請により、授業の評価アンケートをオンラインで収集し、学生の成績情報も加えて、アンケート結果を集計・解析することを検討します。

3−4.学生の履修支援
 卒業のための条件等に基づいて、学生の履修状況を自動的に解析し、履修登録時などに適切なガイダンスを行うと共に、チューターへも情報を配信して、学生の履修支援を行います(図4を参照)。

図4 「もみじ」による学生の履修支援

3−5.データ検索・解析機能
 「もみじ」の機能の多様化に従い、情報量も増加します。利用者が参照可能なすべてのシステム内の情報を、一つの検索画面から検索できるようにします。あいまい検索や確信度の定量化などにより柔軟な検索を可能にするように検討します。

3−6.レポート管理
 教育のIT化が定着してくると、レポートなどの課題設定、提出、返却などもオンラインで行われるようになると思われます。さらに、レポートの提出状況、評価、コメントなどを授業ごと、課題ごとに管理することが必要になり、これらの管理機能も「もみじ」内部に構築します。

3−7.講義ノート管理
 現時点でもオンライン化された講義ノートや配布物は教官のホームページ等に掲載されていますが、全ての授業に対するオンライン資料に共通のプラットホームを与えることにより、学生の利便性向上を図ります。また、これら講義資料のダウンロードは授業進度に応じて制御できるシステムを検討します(図5を参照)。

図5 「もみじ」による学習支援

3−8.オンデマンド授業や講義ノート作成支援
 オンデマンド授業や講義ノートをコンテンツ化するための枠組みを提供し、少ない労力でオンライン化できるように検討します(図5を参照)。

3−9.シラバスの充実
 教育内容のメディアコンテンツ化を全学的に推進する方法として、既に公開されている各授業科目のシラバスの充実を図ることを検討しています。アクセス面での利便性からも、「もみじ」とシラバス及び教材コンテンツとの関連づけを高めていくことが重要です。

3−10.証明書自動発行システム
 学生証のICカード化に伴い、ICカードによる個人認証を行うことを検討しています。発行できる証明書を多様化し、学生の利便性を高めるようにします。


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