情報を伝達する物質の分泌 |
Secretion of bioactive substances |
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文/写真・仲田 義啓
( NAKATA, Yoshihiro )
大学院医歯薬学総合研究科
医療薬学講座教授 |
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(刺激前:放出直前) |
(刺激後:放出直後) |
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写真1 マスト細胞(RBL2H-3細胞)を刺激したときの化学物質放出の様子 マスト細胞は刺激情報に応じて色々な化学物質を放出しますが、放出直後の様子を観察すると、あたかも細胞がはじけたような感じに見えます。
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平成15年春の卒業式にて(筆者左から2人目) |
(刺激前) |
(刺激後) |
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写真2 マスト細胞(RBL2H-3細胞)を刺激したときの細胞内の変化の様子 刺激情報を処理するタンパク質リン酸化酵素(緑色で示す部分)は、刺激を受ける前は細胞内全体に分布していますが、刺激情報を受けると、情報を処理するために細胞膜(外側)に集まります。(赤色で示す部分は細胞核) |
(刺激前) |
(刺激後) |
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写真3 マスト細胞(RBL2H-3細胞)を刺激したときの細胞内骨格タンパク質の変化の様子 細胞の形態を維持する細胞内骨格タンパク質(赤色で示す部分)は、刺激を受ける前は細胞をきれいに形作っていますが、刺激情報を受けるとその形を変化させます。その様子は、細胞内から化学物質を分泌しやすいように変化しているように見えます。 |
最近は電子メールや携帯電話などの普及で、情報が世界中の個人個人まで瞬時に届くようになりました。我々の身体も、情報を伝える物質を分泌するのは神経だけでなく、いろいろな細胞が情報を伝達しようとして、いろいろな種類の化学物質を分泌していることが明らかになってきました。
化学物質を分泌することが可能な細胞が刺激情報を受けると、細胞全体で刺激情報を瞬時に解析し、細胞内の形態を変化させ、刺激情報に応じた化学物質を分泌します。(写真1〜3参照)
例えば、マスト細胞は我々の身体の全身に分布しアレルギー反応に関与していることが知られていますが、急ぐ必要がある情報を伝達する際には、あらかじめ小さな袋(小胞)に詰めていたヒスタミンやセロトニンなどの化学物質を、小胞ごと細胞膜から瞬時に放出します。その瞬間は、細胞膜を波立たせるようにして小胞を放出するように見えますし、通常は細胞内全体に存在するタンパク質リン酸化酵素が、あたかも放出を制御しているように細胞膜の周りに集まる場合もあります。この方法は、神経が神経伝達物質を分泌する場合と基本的に同じです。
しかし、マスト細胞はあらかじめ準備していた化学物質を分泌するだけでなく、その後、必要に応じて自分自身で他の細胞や組織に情報を提供する化学物質を数時間かけてつくり、そして分泌することが明らかになりました。まるで、インターネットでいろいろな情報を集めて、生体の状態を把握しているようです。このときは、細胞の形態を制御している細胞内の骨格タンパク質に配慮しながら情報発信の準備をしているように思えます。情報を伝達する物質の分泌が異常になれば、種々の疾患につながると考えています。
研究室のホームページ http://home.hiroshima-u.ac.jp/pha/ |
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