『生命の星・エウロパ』

大学院生物圏科学研究科
長沼  毅 著
NHK出版(NHKブックス 992)/2004年/1,020円
 木星の第二衛星エウロパは厚い氷の殻に覆われています。一九九五年、ガリレオ探査機によって、氷殻表面に見られる不思議な模様の地形の詳細が明らかになりました。この形成に関する理論と精密な観測から、厚い氷殻の下には液体の水(海)と火山活動があると確実視されています。太陽から遠いこの天体では光合成生物は存在しないでしょう。しかし、エウロパには火山活動によって「地底の海」から湧出する化学物質があり、化学反応の「場」としての水があります。海と火山があれば生命は誕生し進化できます。そのことを私は、深海・地底・南極といった地球生物圏の辺境の研究から確信するようになりました。そして、地球からエウロパ、さらに宇宙における普遍的な生命の姿を考察し、「生命とは何か」という問いに迫ったのがこの本です。皆さんにもこの生命の旅を楽しんで頂ければ幸甚ですし、「エウロパ人」にも楽しんでもらえたら望外の喜びです。

著者のホームページ
http://home.hiroshima-u.ac.jp/hubol/members/naganuma.html



『谷崎潤一郎とオリエンタリズム』

大学院教育学研究科
西原 大輔 著
中央公論新社/2003年/2,000円
 谷崎潤一郎と中国との関係は深いものがあります。大正期には、大陸を舞台とするエキゾティシズムあふれる小説を発表し、二度にわたって中国を旅しました。そして、郭沫若、田漢、欧陽予倩といった文学者とは、気のおけない仲になっています。
 ところが、中国の風俗物産への憧憬を語る谷崎の作品には、一方で、中国を発展の可能性のない停滞した老大国だとみなすオリエンタリズムの言説が満ちています。本書では、エドワード・サイードのオリエンタリズム理論を援用しながら、谷崎のいわゆる「支那趣味」の文学を論じました。谷崎の中国観はどのように変化していったのかを、作品や旅行体験、中国の知識人との交流などから読み解いてゆきます。
 著者の博士論文が母体となって刊行された書物です。近代日本文学や近現代中国文学、さらには大正時代に興味をもっている方に、御一読をお勧めいたします。



『Lives and Works of 12 North American Writers
検定英語で学ぶ北米作家12人』


外国語教育研究センター
ラウアー,ジョー
ノートルダム清心女子大学文学部
達川 奎三 共著
成美堂/2004年/1,800円
 多くの人々が英語の資格試験を受験し、本学でもTOEICに学生全員が取り組んでいます。これには、英語教室においてより実践的なコミュニケーションを意識することが時代や社会の要請であり、試験のスコアを就職や留学の資料として利用したり、学生個々の語学力の伸長を測る「ものさし」として活用する、などの背景があります。
 しかし一方で、優れた作家の作品を原書で読んだり、彼らの生きざまや時代背景などに触れる機会が少なくなりました。そこで本書では、北米作家十二人を取り上げ、彼らの作品の一部を紹介するとともに、それらの背景及び作家の出身地などをTOEIC/TOEFL形式で学習することを目指しました。作家の地域・民族・性別・ジャンルなどを考慮に入れ、学生の興味を喚起できそうな十二人を選びました。ヘミングウェイ、ミッチェル、マーク・トウェイン、モンゴメリー、トニ・モリソンを始め、ヒロシマを伝えたJ.ハーシーなども取り上げた学生用教材です。



『マントル・地殻の地球化学』

東京大学大学院理学系研究科
野津 憲治
大学院理学研究科
清水  洋 共編
培風館/2003年/3,800円
 地球の壮大な営みを化学的に解明する地球化学は、地球内部の変動を探究する固体地球の研究の他に、大気水圏や生物圏を対象とした地球環境関連の分野においても大いに進展しています。この広範な地球化学の領域を体系立ててまとめた「地球化学講座」(日本地球化学会監修、全八巻)のトップバッターとして、マントルと地殻の化学に焦点をあてた本書を刊行しました。固体地球化学の基本的概念や、固体地球の進化および地球内部の物質循環などに関する最近の成果を、第一線で活躍している十名の研究者が分担執筆しました。
 本書の刊行された二〇〇三年は、地球化学分野で大きな位置をしめるゴールドシュミット国際会議を地球化学会(本部はアメリカ)・ヨーロッパ地球化学連合・アメリカ鉱物学会・日本地球化学会の共催のもと、倉敷で開催しました。三十五か国、千百七十名の参加で大成功をおさめ、本講座の刊行とあわせ、日本の地球化学の実力を示した記念すべき年となりました。


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