PHOTO ESSAY -75-  植物の形を決める




写真1 シロイヌナズナは、アブラナ科の、広く使われているモデル実験植物です。

写真2 タバコ培養細胞(BY2、左)は、細かい均一な細胞群から成るのが特徴ですが、それを元にして作出された、細胞壁のセルロースの少ない細胞(右)は、細胞同士が集まって大きな塊(直径約5ミリ)を形成するようになります。
植物のかたちと細胞壁
Cell walls determine plant shape
文/写真・中川 直樹

( NAKAGAWA, Naoki)
総合科学部
自然環境科学講座助手
 生物の細胞にとって、その表面(細胞表層)は外界と相互作用するフロンティアであり、細胞機能の最前線です。我々は、シロイヌナズナ(写真1)やタバコ培養細胞(写真2)を用い、植物の細胞表層(特に細胞壁)の構築に関する研究を行っています。細胞壁は植物の細胞の表面を構成し細胞質を外部から守っていますが、細胞壁合成阻害剤処理や遺伝的変異によって細胞壁の構築が阻害されると、植物は「身を守ってくれる細胞壁が異常になった」ことを感知し、それに対処するために、以下に紹介するような、形を変化させるなどの様々な応答を示します。
応答1:似たもの同士がお互いに寄り集まることで、細胞壁の弱体化に対応する。
 植物の培養細胞では、細胞壁の主成分(セルロース)がほとんどなくなった細胞を作ることができます。その細胞(写真2、右)は、大きな塊を作り、セルロースの代わりになる成分(ペクチン)を大量に分泌して、生き延びています。これは、銀行などの企業が同業種間で合併することで厳しい経済状況を乗り切ろうとしているのと似ているかもしれません。
応答2:成長をいったん止めることで、厳しい環境をやり過ごす。
 植物は、発芽した後、根や茎を伸ばして大きくなります。しかし、細胞壁の合成が阻害されると、細胞の伸長が抑えられ、特に根の形が変化(太く、短くなる)します(写真3、4)。人間にたとえると、新規事業に取り組んだりするのは一切やめて、守りを固めて環境が好転するのを待っているようなものです。とても消極的な戦略ですが、自然界で生き残ることを優先すると、そうなってしまうのかもしれません。

 本年度から、広島大学は新しいスタートを切りました。これまで国立大学ということで様々な面で保護されてきたのが、そうでなくなることが予想されます。植物にたとえると、細胞質を保護してくれる細胞壁がなくなるようなものです。植物が見せてくれているように、変化に柔軟に適応することで、この事態を乗り切っていきたいものです。

執筆者のホームページ http://home.hiroshima-u.ac.jp/naka/textjj.html

写真3 寒天培地上で発芽させたシロイヌナズナの芽生えは、培地に細胞壁合成阻害剤を入れておくと、根の伸長成長に顕著な変化が生じます(右のように、根が短く太くなる:直径約500μm)。私は、この系を用いて変異体を単離し、細胞表層と細胞内の相互作用について解明しようとしています。

写真4 写真3の右のように肥大した根は、細胞壁に蓄積した物質によって蛍光を発します。これは、植物が細胞壁の変化に対応しようとする応答の一つと考えられています。丸く肥大した細胞も見られます(直径約100μm)。


広大フォーラム2004年6月号 目次に戻る