4月に国立大学法人広島大学が設立され、新しい諸制度のもと、到達目標「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」へ向かって歩みはじめました。
 広大フォーラムでは、昨年の10月号(No.378)に特集『国立大学法人化前夜』
(「国立大学法人法の基礎知識」、「法人化後の財務・会計制度について」、「法人化後の人事制度について」、「労働安全衛生法への対応を中心とした安全衛生管理に関する取り組み」)を、そして同12月号(No.379)に特集『国立大学法人広島大学の「ありたい姿」』(「広島大学のアイデンティティはどこにあるのか」、「志願者・入学者の状況から、本学のアイデンティティを考える」、「企業から期待されている広島大学像と今後の展開について」、「中期目標・中期計画(素案)」、「国立大学法人広島大学設立構想」、「学長インタビュー(大学改革と法人化に寄せる思い)」)を、さらに本年の4月号(No.381)に「国立大学法人広島大学設立」として学長からの所信表明と理事・監事紹介を、それぞれ法人化に関係する記事として掲載しました。しかし、構成員の『声』は、まだ取り上げていませんでした。
 そこで、6月号では、法人化後の全学の舵取り役であるトップ(主に学長および副学長)に対する、教職員からの期待や要望などの意見を特集することにしました。全部局等から計18名の教職員の方々に執筆していただきました(配列は五十音順)。皆さんの『思い』はこれらに代表されていますでしょうか。

 なお、『広大フォーラム』はいつでも皆さん(全構成員)のご意見をお待ちしていますので、さまざまな『思い』を是非お寄せ下さい。

※本誌8月号では、本特集を受けての座談会を企画しています。副学長と本特集執筆者他に参加をお願いする予定です。その模様は8月号の特集でご紹介します。

文・飯澤 孝司

( IIZAWA, Takashi)
大学院工学研究科
化学工学講座助教授

今回新設されたドラフトチャンバー
 今回、執筆をお願いする適当な人が見つからず広報委員自身が書くことになりました。書く前に、所属する物質化学システム専攻の教職員に国立大学法人化について尋ねてみると、多くの方は今後の不安について語ります。その一つの原因としては、悪い情報のみが一方的に伝わり実際のことがよく伝えられていないためと考えられます。新執行部の方にはできるだけ速やかに多くの人が共有する形で情報の開示をお願いします。この件については他の方が書かれると思いますので、私達の所属している実験系の研究室の環境改善について述べさせてもらいます。
 実験系の研究室では、伝統的に研究優先で周りの環境についてはあまり重要視されることがなく、民間企業の研究所に比べ格段と悪い環境で研究を行ってきました。しかしながら、法人化に伴い労働安全衛生法や高圧ガス保安法などの法律が民間と同様に適用されるため、研究室の環境の改善に真剣に取り組む必要が出てきました。コンサルタントが入りさらに化学系設備改善WGでその対応について検討を行いました。この結果に基づき、今年の一月から三月にかけて、書棚・薬品棚などの固定化、ドラフトチャンバー新設・改修、ボンベ庫の増設などが行われました。この改善により環境は確かに良くなりましたが、これも最低限度を満たしたに過ぎず、ドラフトチャンバーの数やスクラバー(排気ガス洗浄装置)が十分ではありません。さらに、化学薬品の管理、実験室と居間の分離、廊下に置かれているものの撤去など研究室の環境に関してはまだまだ問題が山積しています。これらの改善には多額の費用が必要です。すぐに民間企業並みにすることは不可能と思いますが、新執行部の方には研究室の環境問題について長期にわたる改善目標および改善案を示していただけるものと期待しています。当然私もそれに協力して行きたいと思います。

文・飯沼 昌隆

( IINUMA, Masataka)
大学院先端物質科学研究科
物質基礎科学講座助手

先端研山西先生の退官記念パーティーの会場にて、著名なゲスト2人と先端研量子情報生命科学推進室メンバーとともに(平成16年3月。筆者左から2人目)
 新執行部に期待することを書いてください、との依頼を受けたのですが、期待というよりも要望になってしまいました。少々言い過ぎの面もありますが、そこは若者の戯言と思って軽く流してください。法人化後に、やるべきではないかと思ったことは、教員を次の三つのカテゴリー、主に研究を専門とする職員、主に学生教育を専門とする職員、さらにはマネージメントを主とする職員に分けることはできないか、ということです。学長の掲げる「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」を目指すのであれば、基本的に研究職員が研究活動に専念できる環境を整えるべきです。その一方で大学が提供する高等教育とは、個々人の研究活動での経験や知識、思考などの集大成によって提供されるべきものであるというのが私の考えです。高等教育は、長年研究活動に携わって実績を積んでこられたシニアな方々にこそふさわしい、と思いますし、すでに退職された方々でもかまわないと思っています。長期的視野にたって、じっくり腰を据えて、ぜひともすばらしい授業を学生に提供していただきたいですね。その一方で若手には、学生の教育や運営に関わる仕事などをなるべく免除して、自分の研究活動に没頭できるような環境を整えていただきたいと思います。若手研究者の入れ替えや、他大学や企業との研究者間交流の活性化、サバティカル制度の充実など、場合によっては任期制の良いところをうまく取り入れた体制に持っていくと良いと思います。人員、財源をできるだけ確保し大学を経営していくために、質のよい教育の提供による一定の学生数確保、研究環境、本格的な広報活動や安定した財源確保も含めた大学経営の三点が重要です。教育、研究、経営、三分野のエキスパートがバランスよく配置されるのが最も重要と考えます。すぐにできることではありませんが、長期的視点にたって少しずつ、特に経営のエキスパートを養成して欲しいと思います。期待しております。

文・岩本 典子

(IWAMOTO, Noriko)
病院看護部

ひろしま男子駅伝にて(平成16年1月18日。筆者左から2人目)
 広島大学病院の理念の一つに、国民の健康と福祉の向上のために、患者様中心の全人的医療を提供することがあります。社会では、「看護の質の充実を」とよくいわれますが、ひとりひとりの患者様に満足していただけるケアをしようとすれば人手と時間が必要となります。「マッサージをしてあげたい」「入浴や足浴をしてあげたい」と思い、計画しても百%は実践できません。そこで、痛感するのが「マンパワー不足」です。患者様中心の看護ができないというジレンマを持ちながら日々働いているのが現状です。
 今までは国家公務員法によって定員が決まっていました。法人化後は各大学で決定できると聞いています。病院や看護部の理念に掲げてあるように、マンパワーを充実し、ゆとりを持って患者様中心の診療看護サービスを提供したいと思います。また、法人化に伴い大学病院は、今、新たな改革の時期にあるといえます。病院から地域に健康の維持・増進に関する活動を発信できるようになることも願っています。
 私は、休日には陸上競技公認審判員やトレーナーなどの活動を行っています。このような活動を通し病院の中とは違う視点で看護の必要性や魅力を感じています。また、整体に興味を持ち、整体師の資格を取りました。医療の奥深さと癒やしの力を感じながら、この知識や技術をどのように看護の中に活かしていこうかと模索しています。
 私の職場には趣味や夢を持った多くの仲間がおり、そういう仲間と話をするたびに「私も何か挑戦しよう」と刺激を受けています。自分を理解してくれる人達の中で自分のやりたいことができるということは大変幸せなことですし、活力につながります。法人化における人材活用の柔軟性が、それぞれの個性を生かしながら、専門性を高め、時代の変化に柔軟に対応できる職場づくりに繋がることを期待します。また、仲間とたくさん語り合うことで誰もが素直に自分を表現できる「笑顔あふれる広島大学病院」であることを期待します。

文・小櫃 剛人

(OBITSU, Taketo )
大学院生物圏科学研究科
応用動物科学講座助教授

研究室の卒業生とともに(平成15年3月。筆者前列右から3人目)
 大学運営の基本として「ビジョンの共有」を掲げ、運営のビジョンや情報を構成員が共有できるようにIT等を活用することが、「設立構想」に述べられております。トップダウン的な運営にボトムアップ的な要素を取り入れる点で、評価できることと思います。ただ、情報の発信は一方向的になりがちで、誤解や疑念を生むもとにもなるでしょう。これまで行ってこられた、ランチタイムミーティングや夕懇などは今後も継続していただき、構成員とのface-to-face、双方向での「共有」をしていただきたいと思います。「設立構想」の冒頭で「改革には痛みを伴うもの」と述べておられるように、多種多様な構成員からなる広島大学で、すべてに納得いくような運営を打ち出すことは困難なことと思いますが、少なくとも納得できるような根拠を、透明性をもって表明していただくことを期待します。
 私の専門分野は家畜栄養学ですが、その基盤となる産業の畜産や農業では、国土の保全や景観の保持といった多面的機能を評価する流れがあります。言うまでもないかもしれませんが、大学も効率主義では推し量れない多面性をもっています。効率を重んじるばかりでは、失うものも多くなるのではないでしょうか。
 総論的なことばかり述べてしまいましたが、法人化に伴って私自身の身の回りにおこった変化としては、職場の安全衛生問題に携わるようになったことや、教職員の労働問題などに関心をもつようになったことなどがあります。これらの問題に対しては、大学内の実情にあわせて柔軟に対応していただきたいと思います。

文・桂川 信子

(KATSURAGAWA, Nobuko )
理学研究科教育研究活動支援グループ
(数学専攻事務室)
 理学部に非常勤職員として雇われて二十数年、他の職場を知りませんからその辺りを考慮して読んで頂ければ幸いです。大学は大きな常緑樹で表現できるのではないかと思われます。根幹は執行部、その枝は各学部・研究科、葉は学生・院生。枝の部分にいる私たちは、三月に入ってからもなかなか四月以降の事が決まらず日々不安が募り、どうやら広報がほぼ同時でないようで、学部により知っていたり知らなかったり、各部署に伝わるのに少し差があるように感じられました。教育学部と学校教育学部の統合や人員削減により仕事内容が多様化し、時間差が生じ準備が間に合わない事もあったかもしれません。今後は「電子事務局」がその担い手になってくれると信じています。
 元々国立大学を法人化するという構想には、国家公務員の削減が根底にあったわけで、今回の変革で各大学が特徴あるものに変わろうとしている事はわかるのですが、実際問題手にとるようにはわからないし、変革に気持ちがついていってないのはどうしてなのかと、日々自問自答しています。まして四月に法人化してからは色々と様式が変わり、本来の仕事が遅れたりして戸惑っている方が多いのではないでしょうか。業務時間が決まったのも三月末で、実際昼休み時間が減ったため、銀行や郵便局に用事があって行く時には素早く食べて走って行って来るようになりました。昼休みにスポーツを楽しんでおられる方も、何かとせわしなくされていることと思います。
 ある東大名誉教授は、「大学改革は百年くらいしないとその効果はわからない。大学とは本来、基礎研究を教えるところだから今回の「改良」が「改悪」にならない事を望んでいる」と述べていました。執行部の方は、ご足労ですが数年かけてでも各学部・研究科に足を運ばれて、順次その仕事振りを見て話を聞いて回られるのはいかがでしょうか?今後、新しい業務が軌道に乗り、仕事が進むと多少の問題点が出てくるかも知れません。定期的に発生した問題点を話し合う機会を持つと良いのではないかと思われます。また非常勤職員にも、研修がある場合には常勤と同様にその機会を与えて下さい。仕事する上で励みになると思います。
 常緑樹の枝としては、今現在の部署での役目を充分に果たすため、日々精進していきたいと考えています。

文・鹿江 宏明

(KANOE, Hiroaki )
附属東雲中学校教諭

学校・企業・科学館が連携した授業実践(筆者実験中)
 私にとってこのたびの国立大学法人広島大学設立は、幸運にも東雲事業場の過半数代表者に任ぜられたことで、歴史的な改革の一端を肌で感じることができる出来事でした。
 国立大学法人広島大学設立構想に示されている長期ビジョンは、附属学校においても意識すべき内容です。@教育・研究の拠点としての総合研究大学、Aグローバル時代をリードする大学、B大学を中心とした地域共同体の構築、C教育の国際的展開、等は、そのまま附属学校にもあてはまることであり、これからの教育・研究活動の推進における重要な方向性であると考えます。例えば現在実践されている国際交流教育は、次代を担う子どもたちにとってグローバルな視点を育成する上でも重要な学習であり、今後は国際交流から共同学習へと深化されることが期待されます。また、地域と連携した教育についても、地域社会・企業と学校が双方向でお互いの得意分野を提供することで、既成の授業形態にとらわれない新しいスタイルが期待されます。この法人化を機に附属学校も、これまで以上に社会のニーズに敏感に反応し、新しい視点での教育実践を躊躇なく実現できる学校へと変化すること、そして新執行部には、大学の人的・物的リソースを今まで以上に附属学校へ提供いただけることに大きな期待をよせています。
 附属学校はまた、先端的教育実践研究と同時に、「不易」であるべき教育についての実践と研究も担っています。教育は基本的に時間をかけた地道な日々の積み重ねが必要です。附属学校を含めた大学全体が、先端的な教育活動・研究と同時に、地道な教育や研究活動においても積極的に評価される機運が高まることに期待をするとともに、教育を標榜する広島大学として、これからの社会を担う学生や子どもたちに調和のとれた教育・研究活動が実践できることを強く希望しています。

文・菅 慎治

(SUGA, Shinji )
技術センター(原医研部門第二技術班)
技術主任

職場の仲間達と(門司にて。筆者中央)
 私は、原爆放射線医科学研究所(原医研)で放射線関係施設の維持管理等の仕事をしています。あなたは、原医研を知っていますか。他大学等に出張で出かけたときに、その知名度が低いことを実感しますが、それはともかく、学内の学生や教職員にも、この研究所が広島大の附置研究所という独立の部局だと認知されていないことがままあるようです。本研究所は放射線被曝とその治療に関わる研究を進めており、広島大をアピールする上でも差別化し易く一般の方々にも説明し易い看板研究をしている部局です。その点をもっと学内でも認知していただき、これからの学外広報等でも積極的に利用してもらいたいと思います。
 私たちは、昨年度までは文部科学技官でしたが、法人化により広島大学技術センター所属の技術職員となりました。この技術センターは、「教育・研究活動を維持・発展させていくには、教育・研究を支援する体制の整備・充実が不可欠である。このために、人材の一元化による有効活用が必要である」として、各部局から独立した技術支援組織として設立され、人数は八十名位です。私は、技術センターの一員になったのを機に多くの方と交流してゆきたいと思います。これまで、技官は各講座等に属していたので、その教室以外との交流がほとんどありませんでした。たまに参加する技術研究会等で他大学の人と話す機会はあっても、学内の技官同士は疎遠でした。技術職員にとって、各々がどこで何をしていてどんな知識技術をもっているか、互いにわかっていることが重要です。それによって、必要な技術を教えあったり、技術職員の間で資格修得や研究費獲得の相談等をすることもできるようになると思うからです。執行部にはこういった点をご理解いただき、ご支援ご協力いただけることを期待します。それを通じて、私たちの技術が向上し、プロ意識をもって仕事に臨めるようになれば、広島大学の教育・研究の発展をより力強くまたフレキシブルにサポートできるようになると思います。

文・鈴木 喜久

(SUZUKI, Yoshihisa)
大学院社会科学研究科
経済分析講座助教授

研究室にて
 四月に国立大学法人に移行したばかりですが、教職員は中期目標・中期計画を踏まえた年度計画策定に喧しい日々を送っています。新体制へのスムーズな移行と掲げられた目標の達成に、多くの構成員の意識が奪われていることには疑いの余地がありません。近視眼的に行動しがちな状況下にあればこそ、新執行部には長期的ビジョンをもち学生の視点を見失わない懐の深さを期待します。
 教育サービスの受益者たる学生にとって、学生生活の質(Quality of Student Life)とともに、就職・進路選択の問題は最大の関心事の一つでしょう。新たに設置されたキャリアセンターが、そうした学生のニーズに応えるサポート部門の核として積極的に活動されていることは、大変心強く感じます。就職活動はキャリア形成の一環として捉えるべきである(キャリアセンター・ニュース)との認識は、全教職員が学生とともに共有すべきものだと思われます。ところで学生の就職問題は専門部署に任せておきさえすればよいことなのでしょうか。
 学生にはキャリアビジョンを描き、進路にあう科目を選択し、充実した学習を行うことが求められています。これに対して現行の授業内容や授業科目群は、これを十分に意識した形で構成されているとは言い難い趣があります。教育プログラム制の導入には一つの解答となることが期待されますが、教職員の意識改革の必要性は否めません。学生のキャリア形成意識の高まりと教育目標の高いレベルでの達成との有機的結合が学習意欲を高め、Quality of Student Lifeの向上に資すると考えられます。その実現のためには、執行部の強力なイニシアチブの発揮と実効性の伴う評価制度の導入が必要だと考えます。
 卒業後五〜十年を経た広大OB、OG達が社会からどの様に評価されるのか、また十五年、二十年と実社会で経験を積み重ねた彼らが学生時代を振り返って何を思うのか、大学の真価が問われるその時に決して後悔させないと言える『長期的ビジョン(自信)』を備えたガバナンスを新執行部に期待してやみません。

文・田地 豪

(TAJI, Tsuyoshi)
病院口腔維持修復歯科
口腔インプラント診療科助手

研究室にて
 私たち医歯学臨床系教員の仕事は「臨床・教育・研究」の三つです。病院所属の者も大学院所属の者と同じようにすべてをこなさなければなりません。病院所属である私の日課は、朝九時から夕方五時まで臨床実習の学生を指導しながら患者さまの診療をし、曜日によっては基礎実習に参加しなければなりません。会議は五時以降ですし、同時に医局の仕事もかかえています。研究時間は夜遅くなってからでないととれません。この霞キャンパスで働いている皆さんは私と同じ状況だと思います。
 このたび大学が法人化して、私の生活の何が変わるのでしょうか?今は手探りの状態で以前よりも忙しくなりましたが、本質的なものはまだ何も変化していません。しかしながら、私なりに法人化後の大学に期待することを述べたいと思います。
 これまでは研究業績重視の中で、教育を熱心に行ってもあまり評価されていませんでした。また、教育系論文はインパクトファクターがなく評価されにくいために、私たちの教育熱は徐々に冷めてしまうのが現状でした。しかしながら、優秀な臨床医、研究者を育成し、輩出する使命が私たちにはあります。教育の評価では、担当授業の時間数ばかりでなく、その内容や質までの評価をどのように行ったらよいのでしょうか?また、日々の臨床においては、患者さまの満足度の高い診療を目指して取り組んでいますが、患者さまの満足度に目を向けた評価はされていないようです。教育も臨床も人と人とのふれあいで成り立つものですから、数字で表すことのできない形の無いものを評価することになります。評価項目や評価基準を作成することは難しいことであると思いますが、これら質的評価はとても重要なことです。臨床・教育・研究の全てを満遍なくこなすことは非常に難しいことですから、現実はいずれかにウエイトをおいて仕事をすることになります。臨床や教育に力を入れて仕事をしている私のような者も評価される大学になることを是非期待しています。

文・田畑 佳則

(TABATA, Yoshinori )
大学院国際協力研究科
教育開発講座教授

ユネスコ・アペイドセミナーにて
 今春、広島大学は、「国際的な連携及び交流活動」に対する大学評価で全国トップレベルの高い評価を得たことが報道されました。それは多くの関係者の長年にわたる努力の賜で大変喜ばしいことなのですが、あくまでもそれは国内での比較であって、本学が世界的なレベルの大学をめざすには、国際的な活動をさらに積極的に進めていくとともに、それを能率良く実施できる体制づくりが求められると思います。
 大学の法人化に対してはいろいろな見方がありますが、設立十周年を一区切りとして飛躍をめざす国際協力研究科(IDEC=アイデック)にあって、私は、この度、これまで難しかった国際協力活動の新しい試みに挑戦できる可能性というか、好機を得たと思っています。
 IDECでは、二十一世紀COEの採択を受けた「社会的環境管理能力の形成と国際協力拠点」プログラムが本格的に活動を進めており、国際貢献はもとより、大学の研究水準の向上、国際化の進展、知名度アップに大きく貢献するものと期待されています。また、本学はユネスコが推進するアジア・太平洋地域教育開発計画(APEID)の協同センター(IDECはその主管部局で、小生が事業実施委員長を務めています)として、毎年、国際セミナーの開催や研修等の事業を行い、アジア・太平洋地域に幅広いネットワークを築きつつあります。また、IDECでは、我が国初の画期的な試みとしてJICAの青年海外協力隊事業との連携による特別教育プログラム(ザンビア・プログラム)を導入し、注目を集めています。今後は、従来個人ベースでしかできなかった国際協力活動に組織的に取り組み、活動の幅を拡げて飛躍を図っていこうとしています。
 これらの成功は大学の研究・教育の水準を高め、ひいては本学の国内のみならず国際的な知名度アップにも貢献するわけで、大学へのリソース配分が厳しくなってきていますが、これらの取り組みや新たな挑戦に対して物心両面にわたり積極的なご支援をいただけるよう期待しています。

文・友澤 和夫

(TOMOZAWA, Kazuo )
大学院文学研究科
地表圏システム学講座助教授

地理学研究室で大学院生と文献調査する筆者(中央)
 国立大学が法人化し、これからは大学間の競争が益々激化すると思います。その下で我々が考えるべきは、教育と研究の両面での競争力を如何に向上させるかにつきると思います。優れた教育と研究を行い、広島大学の社会的な評価を高めるために構成員各人が前向きな姿勢で努力するのはあたりまえですが、個人の営みには自ずと限界があり、全体として組織的に取り組む必要があると考えます。私としては、全学のもてる人材を適正に配置し、教育・研究機関として全体最適となるようなシステムや組織を構築することを執行部にお願いします。部局レベルの部分最適の集合が全体最適ではありません。広島大学全体として思い切ったシステムづくりが必要と考えます。
 この点での私見を述べます。文科系の場合、同一の学問分野に従事する教員であっても、所属する部局がバラバラで分散的な状態にあります。そこでは教員はともかく、同じ学問を専攻する院生が互いに顔も知らないという状況も出ています。今後は、教育面での効率や効果、フレキシビリティを高めること、個人としての研究に加えプロジェクト型の研究を遂行することが求められます。また、毎年二%予算が削減されると言われており、これを現状の分散した状態で被ると、じり貧に陥ることが目に見えています。こうした諸点に鑑みれば、学問分野として集積のメリット、スケールメリットが発揮できる規模・単位に再編成し直すことが必要と考えます。世界的には、イギリスのディパートメント制に代表されるようにこのスタイルの方が標準ですし、こうすれば大学院大学として教育と研究という実質を優先した組織が形成できるものと思います。先が見えない時代に個々の構成員の「前向きな考え方」が必要なのは当然ですが、執行部には構成員を前向きにさせる仕組みを他大学に先駆けて打ち立てていただきたいものです。

文・難波 博孝

(NANBA, Hirotaka)
大学院教育学研究科
国語文化教育学講座助教授

演習風景(山元先生とともに。
筆者書棚を背にして)
 私たちの「ありよう」は目に見えないところで大きく変化しています。広島大学の全ての構成員は、雇用者と契約を結んで労働する「労働者」に名実ともに変わっています。
 私事ながら、私の妻は、企業に勤めている「労働者」です。常に成果を測られ目標を達成できなければ降格や降給もありうる仕事です。けれども、私の妻は仕事の成果を上司から測られる一方で、私の妻の上司も妻から評価されます。いわゆる全方位評価が行われる中で、妻も同僚や上司たちも、ぎすぎすした関係ではなく職務がスムーズにいくような職場環境作りに努めているそうです。そうでなければ、会社がつぶれるからです。
 私たちの労働は、目に見えた成果を上げることが大変難しい仕事です。大学における全ての職務―教育も研究もそして事務や校務も―は、その成果を数値化することが大変難しいものです。一方で私たちは、成果を上げることが期待されそのことで評価される「労働者」になっています。
 私たちは、自分の仕事の成果を誰に見せていけばいいのでしょうか。教育なら学生でしょう。けれど、教育の本当の成果は、長い時間かかって学生に表れるものです。研究もそうでしょう。本当の研究の成果は気の遠くなるような時間が必要です。そして、事務や校務もまた、地味で地道な職務の積み重ねの中に、本当の成果が見えてくるものです。いわゆる評価者に向けて、わかりやすい成果をあげるところに、私たちの仕事の本当の目的はありえないと思います。
 利潤を追い求める企業ですら、良好な職場環境を作り続けることが必須だと考えています。目に見えず、地味で地道な成果こそが尊ばれるべき、私たちのような職場ではなおさら、職場環境を良好に保ち続けることが求められています。それを行うことが結局、広島大学を、いい「教育の場」「研究の場」、そして、「生活の場」にすると思います。どうか、そのような努力を惜しまないでください。私もやりますから。

文・花岡 俊輔

(HANAOKA, Shunsuke)
学長室企画・評価グループ

職場にて
 この四月から、広島大学は国(文部科学省)が管理する組織から離れ、独立した法人格を持つ組織になりました。これまでは、国が学内の予算や人事、研究内容などを規制し、教育や研究活動の柔軟な展開に制約がありましたが、法人化により、こうした国の関与が弱まったことで、大学独自での裁量が増え、より自由な活動が可能になりました。
 しかし、「自由」が増えるというメリットがある反面、本学が行う活動に対して評価を受けることが義務づけられます。この評価の中には、国立大学法人評価委員会による評価や、認証評価機関による定期的な(大学は七年以内、専門職大学院は五年以内)認証評価等があります。これらの評価に対応していくためには、本学が、自らの個性・特色、建学の精神等に基づいた評価項目や基準、ガイドラインを定め、自己点検・評価を行うことが重要です。このような自己点検・評価を行うことによって、本学の強み、特色をアピールでき、不足している点を改善向上させることができます。また、前記の自己点検・評価等の評価結果は、公表も義務づけられており、評価結果を公表することで、入口面では志願者の判断、出口面では卒業生を採用する企業等の判断も助けることができます。
 ただし、点検・評価を行う目的は、あくまでも大学を活性化することです。
 本学の各組織等が、主体的に点検・評価等を日常の大学運営に組み込み、自立的に成長することで、様々な大学評価に耐えうる「発展を続ける偉大な大学」として飛躍することを期待しています。

文・濱 知美

(HAMA, Tomomi)
図書館部学術情報基盤整備グループ

職場にて
 広島大学の「大学運営の基本方針」(平成十五年七月十五日)として、「一.トップマネジメント体制の整備」「二.下部組織の活性化」「三.全構成員によるビジョンの共有、情報の共有」が提示されました。
 これには、「本学では、トップダウン型運営を基本としながら、ボトムアップ型運営の長所も加味し、さらに新しい機能を付加した運営形態を創造したい」という背景があります。
 私は、この運営方針を実践するにあたり、トップには、ボトム、つまり下部組織の末端である「現場」の状況を把握していただくため、能動的な情報収集にご尽力いただくことを期待します。
 前掲の基本方針の中で、「トップダウン型運営の特徴」として、「トップの役割は、集約された情報をもとに状況判断して意思決定し、指揮命令を下すこと」とあります。この「集約された情報」は、その過程において、現場の空気や声が排除されてしまう危険性をはらんでいます。
 現場で何が、どのように行われているか、現場の者がトップの考えを理解して実践しているか、トップの方にも興味を持って、体感されるなり、現場の者にお声を掛けるなりして、生の情報を得ていただきたいと思います。
 私が以前勤務していた会社では、社長・役員らが定期的に支店を訪れ、社員を激励し、支店長と面談していました。今では、訪問回数を増やし、本社のある市内店舗のみでなく、県外店舗にも訪問するそうです。加えて、一般社員とも面談するなど、以前より徹底している感があります。
 トップ自らが、現場のことを「知りたい」と思っていただければ、こんなに嬉しいことはありません。「トップは、現場のこともちゃんと考えてくれている」と信頼できるからです。それこそ、働き甲斐のある職場と呼べるのではないでしょうか。

文・平原 靖子

(HIRAHARA, Yasuko)
総合科学部教育研究活動支援
グループ(行動科学講座事務室)

ある日の講座事務室(3月に退職された内藤さんも一緒に…。筆者手前)
 広島大学が国立大学法人となって一ヶ月が経とうとしています。今のところ、びっくり仰天するような大きな変化はなく、臨機応変に対応すればそれでよい状態のように思うのですが、それは学部の教室という末端にいるせいなのでしょうか?自分から知ろうとする努力をしなくては何の情報も入ってこない場にいる者として、ここに来るまでの経緯を見て思ったことなど書いてみようと思います。そうすれば執行部に期待したいことが見えてくるかもしれません。
 一昨年、法人化に向けて接遇研修なるものが行われましたが、今更なにを、という感がぬぐえず、マニュアル化された接遇では教育研究支援という場では虚しいものとなります。ただ、丁寧な言葉を使うことは悪いことではないので、そういう点では法人化に向けて意識を変えていくのには役だったと思います。しかし法人化に限らず、やはり何事も必要なのは最終的には個人としての仕事(役割)に対する誠実さにつきるのではないでしょうか。少し感傷的すぎるかもしれませんが、合理化と、人間関係の希薄さは同時進行すると言われて久しく、それは仕事に対する愛着の希薄さにも通じているように思います。別に仕事人間がいいと言っている訳ではありません。ただ、現在の職務に愛情を持って働いている人間にすれば、大学の体制が変わろうが仕事に対する態勢は変わらないということです。
 執行部に期待したいこと、いえ、まず、知って欲しいこと。それはやはり、学部の教室にも広島大学を愛してやまない一個人がいて微力ながらも先生達、学生達の役に立ちたいと思いながらひっそりと働いているということです。知ってもらえれば、そこからまた、こちら側にやって欲しいことが出てくるでしょうし、そうすればそれに応えることもできるというものです。

文・三井 正信

(MITSUI, Masanobu)
大学院法務研究科
民事法講座教授

研究室にて
 現在、社会経済は大きな構造変動の時期を迎えており、このような時代状況の中で、広島大学は国立大学法人化という新たな道を歩み始めることになりました。これからはまさに大学激動の時代であり、広島大学の浮沈・盛衰の鍵を握り二万人を超える学生・教職員の運命を左右するのはひとえに執行部の資質・力量、時代を読む先見性と冒険心、視野や度量の広さ、構成員の声を的確・公正に汲み上げて大学運営にポジティブに反映させる姿勢などにかかっていると言っても過言ではないでしょう。とにかく、荒波の中をしっかりと冷静かつ大胆に大学の舵取りを行い、オリジナリティーあふれた先取の精神でクリエイティブかつアクティブに大学を大きく発展・飛躍させることが重要となります。その意味で執行部の責任の重さは甚大といえますが、法人化の船出にあたって大学の方向付けを決するために次のようなことが特にこれからの喫緊の課題となるように思われます。
 まず、第一には、変化の激しい社会経済の動きを冷静に見据えてこれを分析し、時代にフィットするとともに時代を先取りするような創造性あふれた教育・研究体制を確立することが重要となります。そのためにはクリエイティブなビジョン・戦略を持つことが執行部に求められると考えられます。また、併せて、グローバルな視点を持ちつつ独自の経営戦略を展開していろいろな新たな分野へ進出することも必要になるでしょう。
 第二に、学生・教職員が活気と積極性と自主性と独創性と希望を持って明日を語れる教育の場や職場を創り出すことです。第一の課題を実現するためには活気あるマンパワーが必要となります。要は人を大切にする大学作りが求められるのであって、学生を含めた広島大学の構成員のひとりひとりが大きな可能性を秘めた主人公であるとの認識を執行部が持ち、このような個人をサポートする体制作りを進めることが重要となると考えられます。

文・森邊 成一

(MORIBE, Seiichi)
大学院社会科学研究科
政策動態講座教授
 世界に伍する総合研究大学を、教職員とビジョンを共有しつつ、作り上げるという牟田学長の大学経営手腕に、大いに期待しています。そこで、いくつかのお願い。
 @「管理から経営へ」。学長がおっしゃるように、トップダウンかボトムアップかという二者択一的発想は無意味で、成功するコミュニケーションは常に双方向的です。だからといって漫然と教職員を集めて会議をやればよいというわけではありません。会議にはコストがかかっていることに、自覚的であっていただきたい。経済学には、「会議費用」という概念もあります。教員は教育・研究に専念し、職員はそうした教員の支援と学生サービスに専念すること、つまり業務の第一線に資源とエネルギーが集中されることが、経営改革の重要なポイントであるはずです。会議を主催する側が、この点に十分自覚的といえるでしょうか。コスト意識、管理から経営への移行にとってのポイントであると思います。
 A「民間企業の成功と失敗から学ぶ」。UI戦略の一環として新しい広大ロゴが目につくようになりました。しかし、このロゴ、新設私大のそれと充分に差別化が図られたものとなっているでしょうか。UIは、いうまでもなくバブル景気華やかかりし頃に流行したCI(コーポレート・アイデンティティ)の大学版です。多くの企業が取り組んだCI戦略には見るべき成果がなかったと、今日では総括されています。しかし、成功した企業もありました。例えば「味の素」は、そうした一例です。ロゴを毛筆書きの「味の素」から「AJINOMOTO」に換えることで、中高年なら誰でも知っている化学調味料のブランド・イメージ(伝統)を保持しながら、若年ファミリーをターゲットとした総合食品メーカーへの脱皮(経営戦略)を象徴しました。新しい広大ロゴを見るたびに、ロゴに結晶化できるほど、大学の経営戦略が、未だ具体化されていないのだろうかと、いささか不安を覚えます。
 B「フラット化」。最後に、今、国や自治体が取り組んでいるNPM改革に言及したかったのですが、紙面がつきてしまいました。そこで一言、組織構想の段階にはあった「フラット化」の概念を、本来の姿で、もう一度すくい上げていただきたい。
 期待が大きい分、苦言も述べてしまいましたが、ご容赦を。

文・吉栖 正生

(YOSHIZUMI, Masao)
大学院医歯薬学総合研究科
探索医科学講座教授

霞総合研究棟7階にて
(筆者前列左から2人目)
 この四月、私達を含む創生医科学専攻探索医科学講座の中の四教室が、新装成った霞総合研究棟に引っ越して参りました。私達の教室は、心臓と血管を対象にオープンな研究室を目指して頑張る所存ですので、何卒よろしくお願い申し上げます。
 さて「法人化にあたって新執行部に期待したいこと」ということで、私にとって身近な、医療担当副学長室への期待を中心に書きます。
 まず、医療担当副学長を、霞キャンパスの「主治医」になぞらえたいと思います。霞キャンパスに起こる問題一つ一つが「クライアント(患者さん)」です。学長が院長先生で、主治医は他の副学長の皆さんと医療チームを組んで、霞に起こる諸問題を診断し、治療していくわけです。
 当然、カルテが必要になります。主治医が定期的に交代しても、カルテがあれば一貫性のある治療が行えることになります。実際にカルテに相当するものは医療担当副学長室に置かれたファイル・キャビネットの中に整理・保管されている資料ということになります。
 カルテを調べると過去に行われた治療とその結果も分かります。過去に行われた時はうまく行かなかった治療法も、その後の進歩により、他の治療法を組み合わせるとうまく行くかもしれません。国内外の新しい治療法を調べて導入することも必要でしょう。
 問題が持ち込まれる(患者さんが来られる)のを待つだけではなく、積極的に問題がないかサーチする(検診を行う)ことも必要かもしれません。
 最後に具体例として、霞キャンパスの再開発を挙げます。将来構想として示されている診療、教育、研究、社会交流のゾーン分けは非常に分かりやすいのですが、実現は容易ではありません。長期にわたり各方面の調整を図っていくうえで、医療担当副学長室が果たされる役割は非常に大きいと思います。


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