『アジアの時代・日本の選択』(中国新聞社、日本語)
 Japan′s Options for the Asian Age (英語版)
文・山下彰一(Yamashita, Shoichi)         
大学院国際協力研究科長(国際シンポジウム部会長)



二十一世紀は「アジアの時代」か

 二十一世紀は、「アジアの時代」といわれる。大方の予想では、 世界の政治も経済も、そして文化も、これからはアジアが中心となり、アジアを軸 に動いていくという見方が強い。
 しかし、われわれ日本人は、アジア各国の動きをあまり知らないし、知ろうとし ていない。実は、アジア各国では、日本人の予想をはるかに超える大きな変革のう ねりが現実に起こっている。
 本報告書は、広島大学の統合移転を記念して開催された国際シンポジウム「アジ アの時代と日本」(一九九五年十一月実施)の記録であるが、このシンポジウムは 、少なくとも次の二つの問題意識をもって企画された。一つは、「アジアの時代」 といわれるそのアジアの中に、もし日本が含まれていないとすればどうなのか、と いう問題意識。私たちは、アジアと言えば日本は当然その中に入る、と思っている 。ところが、アジア各国では、日本(人)の期待に反して「日本離れ現象」 が起こり始めている。アジア各国の動きや対日観が、ここへきて大きく変わってき たことを見て取る必要がある。
 第二は、我が身を振り返った時、日本(人)がなすべきことがもっとある のではないか、という点である。日本のいまの政治や経済、社会風俗は、とても諸 外国に誇れるようなものではない。高度成長の風潮に染まり、有頂天になっている 間に何かを忘れ、タガがゆるんでしまった。子供たちは、大人の不甲斐無さをその まま引き継いでくれている。アジアの人々とお付き合いをする前に、まず自らの歴 史を知り、アジア各国の文化や宗教に学ぶ必要があるのではないか、という問題意 識である。  

 

アジアの知日派のお叱り

 さて、これから日本はどうすればよいのだろうか。ここで多くを 語る必要はない。本書のなかで、アジアやアメリカの知日派の方々が、「日本( 人)よ、しっかりせよ」とわれわれを叱咤た激励してくれている。実 は、彼らから本音の議論を聞くのがこのシンポの真の狙いであった。「日本は、経 済的繁栄に威厳を持たせる必要がある」といったご指摘は、誠にごもっともである 。ぜひ彼らの日本に対する思い入れを聞いてほしい。
 このシンポジウムに招待された外国人の方々は以下のとおりであ る。

シオニール・ホセ氏 (フィリピン、マグサイサイ賞受賞作家)
アリフィン・ベイ氏(マラヤ大学客員教授、被爆者)
金 日坤(キム・イルゴン)氏(韓国釜山発展研究院長)
程 天権(チェン・ティエクン)氏(中国、復旦大学副学長)
ジョイス・カルグレン氏(米国、カリフォルニア大学名誉教授)
リー・ライト氏(シンガポール大学教授)
オマール・ファルーク氏(広島市立大学教授)
朱 建栄(チュ・チェンロン)氏(東洋学園大学教授)

 日本人の基調報告者、討論者、座長は、次のとおりである。石井米雄(上智大学 )、黒柳米司(大東文化大学)、潮木守一(名古屋大学)、牟田博光(東京工業大 学)、今永清二(広島市立大学)、五百旗頭真(神戸大学)、西野文雄(埼玉大学 )、それに広島大学大学院国際協力研究科の中山修一、大塚豊、中逵啓示の各教授 と筆者であった。



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