1000字の世界

星空のこと

文・滝本勇紀(Takimoto, Yuki)
経済学部



 私は旅先で星空を眺めるのが好きだ。烈風の吹き荒れる山頂から 、荒波の寄せる海辺から、瀬の音のみの響く谷底から見上げる星空は、その星の並 びは同じながらも、いつも違っている。
 この数年間の私の旅先には、それぞれに一期一会の星空との出会いがあったと思 うのである。今回は、私と星空との関わりについて書いてみたいと思う。
 初めて興味を持って夜空を見上げたのは、もう記憶も定かではないが、小学校の 一年生の頃だったと思う。そのきっかけは……もう非常におぼろげな記憶しかない が、親が買ってくれた図鑑か何かに載っていた、何かの星雲の写真を見たことのよ うな気がする。その写真の解説は、光の速さにして何億年もの月日のかかる宇宙の 「無限」の広がりについて書かれていたように思う。その「無数」または「無限大 」の感覚が、私の星空へのあこがれの根源となった。
 中学校の終わりまでは、私は大都会にばかり住んでいた(転勤が多かった )ので、先述の星雲はおろか、天の川すら見たことがなかった。高校生の時仲間と 共に飛騨高山へ星を見るために行ったのが、素晴らしい星空との初めての出会いだ った。星空をカメラで切り撮ってみたいと思うようになったのもその頃である。
 大学に入り、天文学サークルに所属してからは、私の星空を求める旅は本格化し た。総重量百キロ近い観測機材を車に積み込んで、東へ西へ走ったものであ る。また登山を始めて、澄んだ星空に出会う機会が多くなった。そして、その頃か ら、日々出会う星空への自分自身が抱く想いが、「一期一会」の出会いとして再認 識されたのだと思う。
 星空の星の並びはいつも同じで、毎晩見上げても特に変化はないのが普通である 。ではなぜ「一期一会」であるのか。それは、物理的には私の存在する地球上の位 置、心理的にはその時の私の気持ちの状態がランダムに変化するからなのだ。
 わかりやすく言えば、風の音、せせらぎ、雲の形とそれを感じる私の感動は、そ のめくるめく一瞬のそれぞれが唯一のものである、ということである。私はそれを 感じるとき、日頃忘れている素直さを取り戻すことができる。
 風よ、水よ、空よ、大地よ、ありがとう。そして生活の中で私を支えてくれる人 たちよ、ありがとう。私と星空との「一期一会」の出会いとは、この宇宙の中に生 まれ出た自らの魂の存在との、また日頃見落としてきた人々の温かさとの、全く思 いがけない、そして心に残る出会いの繰り返しなのである。



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