教職員との連携の強化に向けて

─平成8年度総合科学部学生相談室活動報告─

文・岩村 聰(総合科学部講師)

 平成八年度学生相談室は、学生への指導・援助をめぐって、教職員と の連携を強めるため、アンケートや教授会での報告を行った。その影響もあって、 先生方からの学生に関する相談が増えた。
 九年度は、非常勤カウンセラーの時間枠を増やしてもらうことができ、事務補佐 員の異動もあったりして、月曜日から金曜日まで毎日九時から五時まで開室できる ことになった。




カウンセリング

 この年の年間来談者数は、実数ではあまり変わらなかったが、の べ数はやや増加した。
表1

 表1は、来談者実数の男女別、学年別、学部別内訳である。
 男女別では、大きな変化はなかった。
 学年別来談者数では、三年以上などの学部生が減少し、院生等が増加した。  学部別では、理学部、学校教育学部などが増加し、歯学部、生物生産学部などが 減少した。
 なお、表中の「院生等」には、大学院生、研究生、卒業生、教職員、(記録上) 身分不詳の来談者等が含まれている。また、教職員から、特定の学生の指導をめぐ っての相談(コンサルテーション)は、来談統計にカウントしていない場合が多い 。













表2

 表2は、来談者実数とのべ数の相談内容別内訳である。
 実数での減少は、「心理・適応関係」で大きく、のべ数での増加は、「修学・進 路関係」で大きかった。細かい分類では、「勉学・研究」の増加が著しく、「進学 」、「再受験」、「自己探求」などの減少が大きかった。
 なお、末尾の「心理性格」など六項目は、全国学生相談研究会議の共通分類によ る再分類で、重複した数字になっている。




















表3

 表3は、来談者のべ数の月別内訳である。
 十一月、六月、九月などの数字が増加し、八月、四月などが減少した。
 平成九年度、学生相談室は、表4のような体制で、学生の相談に応じている。 学生相談室は、広島大学の学生の相談なら、なんでも受けつける。あなた も、いつでも気軽に学生相談室を訪ねてください。また、不登校、留年、ノイロー ゼなど、指導困難な学生をかかえてお困りの先生方、どうぞご遠慮なく、学生相談 室へご相談ください。







表4








グループ

 学生相談室は、グループ活動も行っている。目的は、学生等の自 己理解・自己確立や対人関係の発展である。
 「オープン・フライデー」は、授業期間中毎週金曜日午後四時三十分から 六時まで開いている。
 この年度は二十四回開催。参加者は実数で十七名。うち学部生十一、院生等五、 教職員一。延べ数は九十八名。平均四名であった。参加者は、のべ数で減少した。  「土曜友の会」は、月一回土曜日午後二時三十分から五時三十分まで開い ている。この会は、広大生のほか、卒業生や社会人にも開放している。
 この年度の開催回数は十一回。参加者は実数で二十二名。うち広大生五、教職員 二、卒業生三、その他十二名。延べ数は八十名。平均七名であった。この会の参加 者はやや増加した。
 この会の今後の開催予定日は、六月七日、七月十二日、八月九日、九月十三日、 十月四日などである。
 これらの二つの会では、気楽な雑談を交わしたり、誰かが最近の生活や当面して いる問題を話したり、みんながそれに感想をいったり励ましのことばを述べたりす るような雰囲気になる。いずれも会員制ではないので、広大生なら誰でもいつでも 参加できる。都合のいいときに(時間の途中からでも)自由に出入りしても かまわない。参加者には、会費でお茶やお菓子やおいしいコーヒーなどが出る。二 つの会の合同で、季節々のコンパなども行っている。
 こんなグループに、あなたも気が向いたときに参加してみませんか?
 合宿形式の第十九回「土曜友の会エンカウンター・グループ」は、八月に 開催した。参加者は前年度よりも増加して、四十五名であった。大学生は、十二大 学から十九名の参加があって、「インターカレッジ・エンカウンター・グループ」 の色彩が強かった。
 今年度第二十回も八月二十二日〜二十五日、大野町の国民 宿舎宮浜グリーンロッジで開催する。ファシリテーターは、大島啓利(広島修道大 学学生相談室、当相談室非常勤講師)、大西俊江(島根大学教育学部)、鈴木陽子 (ひょうごっ子悩み相談センター)、松本理江(三次児童相談所)、山崎恭子(広 島修道大学学生相談室)、それに筆者岩村、ほか若干名。申込締切は八月十一日 (月)である。
 同様に、学生相談室が支援している第十五回人間関係研究会「宮浜エンカウン ター・グループ」も、三月に開催された。参加者は定員いっぱいの五十名。大学 生は、九大学から十七名。今回は前年度以上に希望者が増え、相当数の方に参加を お断りしなければならない事態になった。第十六回は、一九九八年三月二十日 〜二十三日に開催を予定している。
 これらの「合宿エンカウンター・グループ」では、「オープン・フライデー」や 「土曜友の会」のような話し合いが集中的に行われる。その中で、人と対比したり 、自分の歩みを振り返ったりして、自分を見直すことができたり、出会いや心の交 流によって、自分自身をリフレッシュできたりする効果がある。


研究会活動

 研究会に関しては、相談室内の「学生相談研究会」と、後述の総 合科学部全教官を対象とする「学生の自殺防止について」の報告会を行った。
例年の通り、学内向け「学生相談研究会」も開催した。この年度は、一月 に東京大学の岡 昌之先生を招いて、「学生相談とは何か|対話・援助・出会い」 と題する講演会を開いた。参加者は学内外から二十九名だった。同じ日の午後は、 広島学生相談研究会例会を当番開催し、保健管理センターの勝見吉彰先生の 事例報告を聞かせてもらった。
 ちなみに、広島学生相談研究会は、大学の学生相談(学生指導)関係教職 員なら誰でも参加できる。年四回、会場校持ち回りで開催している。この年九月に は、かけ出しカウンセラーや一般教職員向けとして、カウンセリング基礎実習を含 む「研修会」も行った。この研修会は、今年も九月二日に広島修 道大学で行う予定である。関心をお持ちの先生方やその他の職員の方々のご参加を 期待している(お問い合わせは学生相談室へ)。


教職員との連携

   この年度私たちは、学生の指導・援助をめぐって一般教職員との 連携を強めるため、新しい試みを行った。一つは、「学生の指導・援助に関する アンケート」である。対象は、総合科学部全教職員三一一名。その結果、七十五 名から回答を得た(回収率二四%)。
 得られた回答は、私たちが学生を指導・援助して行く上で、お互いに参考になる ヒントなどを含んでいるので、自由記述回答については、非常勤相談員の大島先生 にも協力してもらってコメントをつけ、そのほとんど全文を紹介する「まとめ」 (十六ページ)を作成した。この報告書の末尾には、付録として「自殺に対する 緊急対応のための指針」もつけた。
 これらの「まとめ」には、さらに、学生相談室や保健管理センターの他の カウンセラーの協力も得て、学生の指導・援助上のヒントなどを項目ごとに追加執 筆することを計画中である。いわば「学生の指導・援助マニュアル」ともいうべき ものをめざしている。完成したら、できれば、全学のより多くの教職員の方々に配 布したいと思っている。
 十一月には、総合科学部全教官を対象とする「学生の自殺防止について」の報 告(講義)を求められた。当日は、学生の自殺の事例や自殺を防ぐことが できた事例(上記のアンケート結果も使いながら)、自殺予防のための教職 員とカウンセラーの連携、自殺への緊急対応のポイント等についてお話をさせても らった。先生方には静聴してもらうことができた。とくに若い先生たちの、真剣な まなざしが印象的だった。最後に「今も自殺の恐れの高い学生たちとカウンセリン グを続けています」とお話しして、励ましの拍手をいただくことができた。
 このような「アンケート」と報告会の影響もあって、この年先生方からの学生指 導に関する相談は、目に見えて増えた。


カリキュラム改革

  平成九年度は、全学的に教養的教育の改革が行われた。教養的教 育に関して、総合科学部以外の学部が担う部分が増え、教養的教育科目の中核とな る「パッケージ別科目」や、「教養ゼミ」などが導入された。
 学生相談室としても、新学期早々例年とほぼ同様の臨時体制を組み、学生の相談 に対応した。臨時相談員をお願いした四月十一日(金)と十四日(月)の 二日間は、合計五十名の来談があった。来談者の大半は新入生だが、二年次以上の 学生も含まれていたし、休学したり留年したりして、大学の様子が分からない学生 なども含まれていた。
 新カリキュラムに関係した相談の中から、今後のご検討を期待したい二、三の点 についてフィードバックするならば……。まず、何人かの学生から、「自分の時間 割の作り方(手順)が分からない」という相談があった。学部学科によって 、ガイダンスがわかりにくかったのかも知れないという印象を持った。入学 早々時間割の作成につまづいた学生は、重大な損害を被りかねないわけだから、よ りよいガイダンスに向けて、試行錯誤を続けてほしいと思った。また、パッケー ジ別科目に関しては、学生の一部に、自由選択の幅が狭いという不満、と りわけ抽選で希望が満たされなかったときの不満を強く訴えてくる学生がい た。今後学生の選択結果などを調査したりしながら、よりよいシステムに向けて工 夫を重ねられることが望ましいと感じた。
 しかし、学生の反応に直接接しながら、大筋としては、今回のカリキュラム改革 は比較的うまくスタートした気がしている。「パッケージ別科目ガイドブック」な どは、時代の中で忘れ去られかけていた「教養」の理念を考え直させるような、そ れでいて現代青年に分かりやすい表現を工夫した、なかなかの労作だと思った。そ の他さまざまな部分で、「改革」が学生に受け入れられている状況を見ることがで きた。関係者の方々の膨大なご努力に、敬意を表したい。



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