贈ることば
停(定)年を迎えられる皆様へ

広島大学長 原田 康夫




 このたび、本学より四十五名の方が退職されます。人生の大半を広島大学で過ごされ、この三月で停(定)年を迎えられた皆様の長年のご苦労に対して心からお礼を申し上げますとともに、無事停年を迎えられましたこと、心からお祝い申し上げます。
 皆さんは広島大学の移転という一大事業の中で広大で過ごされました。中には、学園紛争時代からの方もおいでかもしれません。あの時代からみると本当に広大はよくなりました。その広大の発展をみてこられただけに、大きな感慨があるのではないでしょうか。新キャンパスは本年度文部省の文教施設部長賞をいただき、日本一整備されたキャンパスということになりました。これも皆さんのおかげです。また、長年懸案であった病院も本年より着工します。
 さて、これから皆さん何をしますか。今まで長い間、停年になったらあれもしよう、これもしようと思いをめぐらされたに違いありません。そうです、思ったことはするべきです。世の中は不景気だ、何だかんだと言いますが、皆さんのこれまで生きてこられた人生は、戦後の貧しい時代、ようやく落ち着いたと思ったら、学園紛争で困らされた時代、バブルで浮かれた時代、すべての時代を生きぬいてきておられます。
 この流転の時代に生きぬいた皆さんが一生かけて、こうしたいと思ったことがあるなら、やればよいのです。今まで生きた年月の三分の一の人生が残っているのです。
 目標も気力も好奇心も失った人は長生きできません。特に公務員の中にこの燃え尽き症候群の人がよくあります。
 大切なことは、皆さんが長年もっていた願望に向かって邁進することです。旅行でも、趣味でも、勉強でも何でもよいのです。まだ働かねば子供が小さいという人もあるでしょう。それもよいことです。年をとって一番困ることは、することがない、何をするかわからない、毎日、テレビしかみることがない、このような人が困るのです。また、友を求めすぎても困ります。友を求めるのなら若い人を求めないかぎり、年齢の近い友との交わりは友との別れという一番悲しいことがいくらでもやってくるからです。
 私は、自分で一人になっても生きていけるべく、何事も自分でします。食事のかたずけも、家内のいない時は、自分で食事も作ります。家中のかたずけも、掃除もできます。歌、ヴァイオリン、語学、ゴルフ、最近はコンピューターも二年がかりで勉強し、講演の材料も自分で作ります。散歩もします。できるだけ家内と一緒にどこにでも出かけます。自分の身近な人に感謝し、できるだけ一緒に健康管理を共にすることが、これからのもっとも大切なことだと思います。
 世の中に老いほどむごいことはありません。誰にでもやってきます。長生きすればするほど、つらいことの多いものです。でも、いつまで生きるかは、神のみぞ知るということですので、停年後を漫然と生きるのではなく、楽しく生きるための方法を自分で考えてよりよい人生を楽しんで下さることを心より祈っています。
 どうぞ、健康に気をつけられ、第二の人生を楽しんで下さい。

 



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