青春の滴り…原田学長の『ラ・ボエーム』

文・ オペラ座の怪人


『ラ・ボエーム』第二幕で熱唱する原田学長(写真中央左側)
 平成十一年の年頭を飾る、広島市民オペラ『ラ・ボエーム』で、我らの「歌う学長」原田康夫氏が、主役の詩人ロドルフォを演じた。お針子のミミ役は松本孝子氏。一月十六日の夜、アステールプラザ大ホールを埋めつくした聴衆は、青春の歓びと哀しみに、心ゆくまで酔いしれた。
 『ラ・ボエーム』のボエームとは、もともとチェコのボヘミア地方のことを言い、それがボヘミアンの語を経て、自由奔放な生きかたをする人、特に芸術家志望の若者たちを指すようになった。『ラ・ボエーム』は、だから、「青春彷徨」とでも訳したいところだ。
 一九八八年のサンフランシスコオペラ、この時の主役はパヴァロッティとフレーニが演じたのだが、ブルガリア出身の名歌手ニコライ・ギャウロフが、ロドルフォの友人コルリーネをやった。ギャウロフ(本人はギョウロフと発音している。)は、一九二九年の生まれだから、この年五十九歳、その折のインタビューで、彼は、「年をとって青春を歌うのもいいものです」と語っている。
 今年六十七歳の原田学長が、テナーで、『ラ・ボエーム』の主役を張り、伸びのある高音で聴衆を酔わせたのは、やはり一驚に値しよう。しかも二年前の、『椿姫』のアルフレードの時よりも、よほどできがいい。日頃の精進をしのばせるものだ。
 『ラ・ボエーム』はよくできたオペラで、青春のただ中にいる人にも、かつての青春を懐かしむ人にも、ともに感動を与えてくれる。できれば広島大学のすべての学生に見てもらいたいと思う。歓びであれ、哀しみであれ、感動をもって生きることがどんなに素晴らしいかを、若い人々にわかってもらいたい。
 「歌う学長」の健闘は、広島大学の活力を示すものでもある。生きる実感をもって日々を送ること、それは年齢に関係なく、我々の、生きる姿勢そのものにかかっているように思われる。      



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