講演『少年法改正論の過去と現在』によせて
文・ 塩盛 俊明
法学部4年生
このたび、少年法学界の第一人者である澤登俊雄先生のご講演、『少年法改正論の過去と現在』を拝聴する機会に恵まれた。少年法改正論は、少年による犯罪の増加・凶悪化が盛んに問題になっている昨今、多くの人々にとって大変興味深い論点ではないだろうか。
澤登先生によるご講演の大要は次の通りである。少年法改正作業の歴史を追うと、(1)少年の権利保障の強化、(2)一定の限度内における審判への検察官関与、の両面から現行の少年審判手続きの改善が試みられている。
一九九三年の『山形マット死事件』をはじめ、過去に少年の非行事実が争われた例があったため、事実認定手続きの適正化は非常に重要な課題である。そこから、主に非行事実認定の適正化を中心に据えた今回の少年法改正論が導かれる。ただし、そこには常に少年の利益を考慮することが必要であることを忘れてはならない。
そこで、私は次のような感想を持った。適正手続きは憲法の要請でもあるが、少年事件に直接関わりを持つ少年法の基礎的な考え方に、非行少年の教化・更生の目的があることについて争いはない。さらに、刑事政策の観点からも、あるいは『児童の権利に関する条約』等を参照しても、『児童の最善の利益』が考慮されることが最も重要である。
『児童の最善の利益』を考慮することとは、児童(少年)に対して適正な取り扱いを保障することでもあって、これらの点を見過ごして少年法改正を論じることはできない。つまり、少年の権利を最大限に尊重しつつ、手続きの適正化を高度に実現することが現行少年法の課題であると言えそうである。
少年事件に関する世論の動向は、比較的安易な厳罰化論に傾きがちになるが、この傾向を改善するためにも、少年法が持っている、少年の保護・育成を優先する考え方を広く一般に知ってもらうことが必要ではないだろうか。
その意味で、今回の澤登先生のご講演は、大変有意義なものであった。
*國學院大學法学部教授澤登俊雄教授の講演会『少年法改正論の過去と現在』は、去る十一月二十日(金)午後、法経一五九教室にて、広大法学部ゼミナール連絡会議の主催によって行われた。
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