退職にあたって…回顧と期待…
岩本 義史
(いわもと よしふみ) 歯学部予防歯科学講座
〈部局歴〉
昭和39・4 (大阪大学)
43・5 歯学部
本学に転任して三十一年、振り返れば多くの事をやらせて頂いたことにそれなりの充実感を味わっています。教育では一学年四十\八十\六十名と変動がありましたが、約一五五〇名の歯学生の教育に従事できました。特に講義形態では、学生が主役という発想のもとで、十年あまり学生が講義する発表形式を行ったのは、今でも良かったと思っています。研究関係では生体感染防御の一端から歯科行動科学の分野まで幅広く手がけることができ、全国学会を二度広島で開催しました。
臨床では、予防歯科という患者さんの口腔の健康に一次的に係わる診療に従事できました。本学の教職員や退職者の方々の中にも、健康維持のため定期的に長く来院されているのを誇りに思っています。さらに地域の関係機関との連携で県民の歯科保健の向上に関する活動に携わることができました。
一方で、これで本当に良かったのかと反省もしています。しかし、具体的にどのように反省すればよいのか表現がうまく見つからないのが現状です。
在任期間中、大きな時代のうねりを経験してきました。転任当初の大学紛争、それを契機とした大学改革、九〇年代に入っての自己点検・評価と学部改革、特に今の社会的背景は事態を深刻化し、競争原理で追い立てられているようにも見えます。機構改革などまさに検討すべき課題の多い現在ではありますが、歯学領域においては、口腔の健康を介して全身の健康、そして人間の幸福へ、という基本的理念は時代が変わっても不変だと思っています。
今から百年以上も前に、最初の歯の教科書を著した高山紀斎が、"夫レ口ハ面部ノ下位ニ在テ、…………、身体栄養ノ一大関門ヲ占ム。人生ノ幸福ヲ完全ナラシムニ、口ノ健康ヲ保護スルニコユル事ナシ"と言っています。教育は勿論でありますが研究、臨床においても先の基本的理念を錦の御旗として、将来に向けての一層の改革が進んでいくことを期待しています。
広大フォーラム30期6号
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