今わが人生の嶺に立ちて
豊原 耕作
(とよはら こうさく) 附属福山高等学校
〈部局歴〉
昭和36・4 (公立学校)
44・4 教育学部附属福山高等学校
46・4 教育学部附属福山中学校
48・4 教育学部附属福山高等学校
53・6 附属福山高等学校
私はいま三六〇度の眺望を満喫できる山頂に立っています。どの方向を眺めても遙かかなたには高い峰々が遠望できます。でも、それらは私が登りきったこの私の山からの眺めの邪魔にはなりません。
むしろ、かなたの峰々が私の視界にバランスを与えくれ、山頂からの眺めをいっそうすばらしいものにしてくれています。
人は物心が付く頃から、自分が登る山のことを夢想するものです。私も自分の山を探し始め、登山道に至るだらだら坂道をたどって行き始めました。やがて、気がつくと広葉樹林の中に自分を見つけ、鳥の鳴き声やこぼれ陽光を楽しみながら散策していました。
小川のせせらぎにかかる小さな木橋を渡り数歩あゆんで、ふと顔をあげると小高い杉の木々の端から仰角八〇度もあるように感じられる大地の塊が私の前に現れ出ました。この山の頂上をきわめるには、今来た小道をさらに進むしかない、と心に決め、登り始めました。
さし込むように痛くなってきた片腹を押さえながら着いた五合目では、下界よりはもっとすばらしい眺めを楽しみながら小休止し、さらに高所にある八合目の、もっと、もっとすばらしい眺めを想像して、勇気を奮い起こしました。
いよいよ下山の時になりました。下山には登ってきた道とは別のルートを取ることにしました。その道すがら、今までとは異なったすばらしい絶景を満喫することがあるでしょうから。
附属福山校の晩秋のバラ園で
広大フォーラム30期6号
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