スキーと研究

 水上 孝一(みずかみ こういち) 総合科学部情報行動基礎研究講座 

〈部局歴〉
  昭和38・4 (京都大学)
    42・9 (カナダ・トロント大学)
    43・10 工学部
    52・4 総合科学部
   
 


 異国に居たときカナダの冬景色、氷雪の山スキーを楽しんだ三十余年前も、昨日のように蘇ってくる。当時はスピード狂のように直滑行を楽しんでいたが、ゲレンデコースのちょっとした凹凸を吸収できずに、投げ飛ばされ雪中に突っ込むこと数多であった。
 これに比し、昨今はスラローム、曲折変化、曲水宴のようなスキーを楽しんでいる。奥深い芸である。その深さは、スキー場を渡り歩くごとに深まってくる。理論通りには運ばず、テクニックを要する。これがまた面白さを増す。次は他のスキー場に行ってみようと思うのである。いわば自然の変化、美しさを楽しみ渡り歩く旅人のように。
 四十五年に及ぶスキー歴であるが、未だこれで良いと思ったことは一度もないし、さらに一歩向上し上手になると思いながら、今冬の降雪を待っている。
 現政治体制打倒、大学改革を叫ぶ学生たちと警官隊が激突した街には、焼けた車、はがされた歩道石の散乱、催涙ガスの残る居酒屋。一夜明けたパリ市街の風景であった。今だに私の脳裏に焼きついている、一九六八年の五月のことである。この年の秋には帰国し、広大工学部へ。しかし間もなく、学生運動の舞台は日本の大学へも波及し、講義のできない日が続いた。あれから三十年、現在の大学を見るにつけ、あの舞台で演じられたものは、単に演舞に終わったのかと思う。
 昭和三十三年、大学院に入学してから、研究生活は四十年あまりにもなるが、スキーと同じで、その深みは増すばかり。「真珠を探すには深く潜る」をモットーに、仕事を遺り遂げたいと思う。幸い国際学術誌の編集委員、共同研究など私に与えられている仕事は淀みない。
 最後に、ともに歩んだ卒研生、同僚に感謝するとともに、より一層の広大からの研究発展を祈念する。


毎冬恒例の研究室スキー旅行(筆者右から3人目)



広大フォーラム30期6号 目次に戻る