思い出ずるままに

 松本 憲尚(まつもと のりひさ) 教育学部英語教育学講座 

〈部局歴〉
  昭和39・4 教育学部福山分校
  平成元・5 教育学部  
   
 


 私は、四十四年間、これまで私が生きてきた人生の三分の二以上を、広島大学でお世話になった。学部の四年間は教育学部で、修士課程の二年間と博士課程の三年間は文学研究科英文学専攻で、英語学や英文学の研究の手解きを受けた。昭和三十九年単位取得退学し、四月一日付で、幸運にも、広島大学教育学部福山分校に奉職することができた。爾来、三十五年の永きにわたって、広島大学で教育と研究に携わることができたことを深く感謝している。その意味で、広島大学は私にとって、産みの親であり育ての親であると言っても決っして過言ではない。
 私は、五十八年に、文部省長期在外研究員として、オックスフォード大学で、研鑚する機会を与えられた。それまで幾分怠けていた老体に鞭打って、博学で人間味溢るるD・グレイ教授の下で、若獅子のごとく研究に没頭することができた。グレイ先生にはその後何度かお会いする機会があって、今日でも教えを受けている。学問の雰囲気の漂う環境に恵まれたことは幸運であった。
 私は請われるままに、四十二年から今日にいたるまで毎年毎年三十年以上にわたって、大学院への進学の願望を持ち学習意欲旺盛な音楽、体育、家政科の学生たちに英語を教えてきた。毎年、受講者は十名前後で、途中で腰砕けとなり挫折する学生もあったが、総勢一六〇 名以上の学生が初志を貫徹し、その内の五十名以上が、全国の国公立大学や私立大学で教育と研究に励んでいてくれる。英語教育学とは係わりのないこの人たちが、私の退官を記念して論文集を刊行してくれると聞き、胸が熱くなっている昨今である。
 「人間誰にでも一つや二つの誇りうる取り柄があるものだ」というのが最近の私の口癖になっている。私の誇りうる取り柄の一つが、「教養ゼミ」に先駆けて、四十二年以来今日まで毎週一回学生たちに無料で英語の真髄を教えてきたという実績と自負である。


D・グレイ先生とオックスフォードで(筆者右側)



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