自著を語る

『政治思想への招待』
著者/牧野 雅彦
(A5判,250ページ)
2,600円(本体)
2000年/日本評論社
 



 学生に限ったことではないが、古典といわれる書物が読まれなくなったということが言われて久しい。とくに社会科学系のものにそれが著しいということは、書店に並んでいる岩波文庫の白帯のコーナーをみれば一目瞭然であろう。例えば「壁の崩壊」以降、岩波文庫のレーニン『国家と革命』が品切れのままになっているということが、この国の出版事情と、業界の「見識」をよく示している。すでに手に入りにくくなりつつある政治学の古典的なテキストについて必要最小限の資料集を作ろうというのが本書を書く最初の動機であった。

政治学の古典をおもしろく読む
 本書は政治学の古典十八冊からの抜粋と解説とで構成されている。テキストは、読んで面白く、しかも普通は引用されないような箇所を意図的に選び、しかも「序文を読む」、「註をよむ」、「巻末付録を読む」など、古典の色々な読み方を教えるという工夫も加えた。解説も、ふつうの教科書では絶対に書かないことを書いた(つもりである)。

上級者用の楽しみ方
 さらに(大きな声ではいえないが)いくつかのテキストには手を加えて読みやすくしたし、翻訳の問題についても脚注に述べた。既に複数ある翻訳のうちでどれがいいかを吟味するというのも古典を読む楽しみの一つである。さらに関連箇所のリンクと索引、思想家の略歴などにも工夫をこらしてあるので、政治学の基本的な概念や論点は一通りフォローできる(はずである)。

なぜ「古典」か
 じゃあそもそもいったいなぜ「古典」を読まなければならないのか? 「古典」を読むことにどんな意味があるのか? 実はこの問題は、政治学という学問の、さらにはそもそも政治というものの本質と深く関連しているのであるが、本書を最後まで読めばその理由がよくわかるしくみになっている。関心のある方は是非一読を。  


プロフィール        
(まきの まさひこ)
☆一九五五年横須賀市に生まれる。
☆京都大学法学部卒業、名古屋大学大学院博士課程修了
☆名古屋大学教養部講師、助教授をへて広島大学法学部教授
☆著書『ウェーバーの政治理論』日本評論社、一九九三年、『責任倫理の系譜学――ウェーバーにおける政治と学問』日本評論社、二○○○年。





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