自著を語る

『文化と環境』
著者/早瀬 光司
(A5版、109ページ)
1,600円(本体)
1998年/大学教育出版
 



一〇〇Wの人間活動
 人間一人は電熱器に喩えると一○○Wの電熱器に相当するエネルギーを放出している。
我々は電気器具を日常使用しているが、W(ワット)の意味を知っている人は案外少ない。簡単に説明すると、一Wとは四・二秒間に一cal(カロリー)の熱量を放出することである。または、一Wとは一秒間に一J(ジュール)のエネルギーを放出することに等しい。人間は一〇〇Wのエネルギーで活動し「文化」を作り出してきた。例えば、一〇〇Wの電球を思い浮かべてみると、あの程度のエネルギーで人間の活動が維持され、太古から種々雑多な文化を営んできた(即ち一〇〇W活動の集大成がこれまでの人間の文化であった)ということを考えると、ちょっと不思議な気がしてこないでしょうか?
 本書は、この一〇〇Wの人間活動によって作られてきた文化とそれを取り巻く「環境」との関わり方を様々な視点から十数名の著者によってまとめられたものである。ゲーテによる牧歌的自然観やこれと対峙する帝国主義的自然観があり、自然哲学に関わるソローによるネイチャーライティングの画期があり、ごみを減らす文化を作れるか?としてごみを減らす文化への挑戦があり、地方議会や地方自治体の分権と地方文化・環境観があり、「森と水と土」造りを通してする共生活動があり、人間の文化を育んできた森林の盛衰と菌類があり、グリーンピース活動を例として「What Can We Do(我々には何ができるのか)?」の問い掛けがあり、「動物を食べる・都市生活と食殺・食殺を授業する」では、乏しい体験をどう補償するか?の提案がある。以上のようにその内容は極めて広範囲にわたっているが、一〇〇Wの人間による文化活動が黙示的な中心軸としてこれらを貫いている。
 地球という環境で成育した人間にとって、「上下」「立つ」「座る」「縦横」「水平」などの概念は存在するが、(無重力)宇宙空間という環境で成育した人間が仮にいたならば、その人にとって、「上下」「立つ」等の概念は全く想起しえない。人間の文化はその環境によって大きく制御・影響されていることがわかる。


プロフィール        
(はやせ こうじ)
☆一九七八年東京大学大学院工学系研究科修了 工学博士
☆一九七九年から広島大学総合科学部勤務
☆一九八八年〜一九九〇年米国環境保護庁(EPA)環境研究所留学





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