Forum




研究リーダー
文・高 畠 敏 郎
(Takabatake,Toshiro)
大学院先端物質科学研究科教授



一 はじめに

 今回採択された広大初のCOEには、先端物質科学研究科、総合科学部、工学研究科、理学研究科、低温センター、放射光科学研究センターに所属する物質科学分野の精鋭十四名が参画しています。特色ある分野で世界の学術研究の拠点となることを目指している本学にとって、COE発足は大変重要な意義があります。COEとはCenter of Excellenceの略であり、「独創性豊かな世界最先端の学術研究を推進する卓越した研究拠点」のことです。十二年度までにCOEとして選ばれた研究組織は三十九あり、本年度は六つが採択されました。私たちは、今後五年間にわたって、科学研究費補助金の交付を受けて、以下に述べるような研究分野で世界最先端の研究拠点を形成します。

二 どんな研究拠点を目指すか

 「複合自由度をもつ電子系の創製と新機能開拓」という研究テーマは、クリーン・省エネルギーに役立つエネルギー変換機能をもった新しい物質・材料の基礎となるものです。まず、ナノメートルスケールのすきま(一_の百万分の一)をもった母体物質として、層状、カゴ状、およびハチの巣状の構造をもったものを選びます。そのすきまに様々な原子や分子を挿入すると、その電子が母体とやりとりされて、特異な結合状態や電子軌道の混成した状態が形成されます。このような「複合自由度をもつ電子系」の特徴は、温度、電場、磁場、圧力、光などに対して極めて敏感に応答することです。具体的な物質群とその機能の例を挙げます。



 (1)カーボン系およびマグネシウム系物質をナノ構造化することで、水素との反応性を向上させて、水素を高濃度に貯蔵させる。
→燃料電池用の水素貯蔵。




 (2)ホウ素、窒素、酸素、ケイ素などが骨格を作っている物質のすき間に、他の原子や分子を挿入することで、母体に電子をドープし、高温超伝導を発現させる。
→超伝導量子干渉効果を用いた微弱電磁波の検出。




 (3)希土類元素を含む化合物において、価数の不安定さと電子間の軌道混成を活用することで、優れた熱電冷却特性を発現させる。
→極低温までの熱電冷却。



 機能を一層高めるには、その発現機構を解明することが必須です。このために、本COEには固体物性・分光測定による物性開拓チームと理論解析・量子シミュレーションによる物質設計チームがあります。固体物性測定チームは、新物質に圧力や磁場をかけて、電子・熱輸送特性や磁気特性、超伝導特性を調べます。分光測定チームは、すきま中の原子と母体との結合などをラマン分光とトンネル分光によって調べます。放射光科学研究センターでは、世界第一級のエネルギー分解能を有する光電子分光装置を活用して、電子構造を解析します。私たちはこの様にして従来の物性物理学、固体化学、材料工学を学際的に融合した「すきまの科学」という新領域を切り開く研究拠点を形成します。



三 おわりに

 名実ともにCOEとして確立するためには、世界的にトップレベルの研究成果を上げ、国際的に開かれた知的交流を盛んにする必要があります。私は、関係者の高い目標設定と切磋琢磨によって、必ず実現できると確信しています。平成十四年八月には、国際シンポジウムとして「第二回広島ワークショップ 先端機能物質の輸送・熱現象」を学士会館において開催します。最後に、COE発足まで多くの方々から頂いたご支援に深く感謝しますとともに、COE確立まで引き続きご支援を賜りますようお願いします。


研究メンバーと(筆者前列右から2人目)


詳細は http://home.hiroshima-u.ac.jp/iscoe/ を御覧下さい。



広大フォーラム33期2号 目次に戻る