原生動物ミドリゾウリムシから共生藻を除去する技術 文・細谷 浩史
(Hosoya, Hiroshi)大学院理学研究科生物科学専攻教授
植物は光合成を行って太陽エネルギーを生存に利用できるが、動物はそれができない。これが、私たちの常識です。しかし、原生動物の一種であるミドリゾウリムシは、 内部に多数の共生藻が共生しており、この共生藻が行う光合成によって生成される糖を利用することで、生存に太陽エネルギーを利用することが可能です。なぜ、ミドリゾウリムシに共生藻が共生しているのか。他の高等動物に共生藻が共生していないのはなぜか。高等動物にも共生藻を共生させることは可能なのだろうか。疑問は尽きません。共生藻はなぜミドリゾウリムシに共生できるのか、そのメカニズムを探りたい。本特許は、このような背景のもとに誕生しました。 ミドリゾウリムシから共生藻を取り除き、共生藻除去ミドリゾウリムシを作成する。 ついで、この共生藻除去ミドリゾウリムシに共生藻を再共生させる系を確立する。この系を用いれば、共生メカニズムの解明を確実に進めることができるのではないか。このように考え、まず、共生藻除去ミドリゾウリムシを作成することにしました。 文献を調べると、ミドリゾウリムシから共生藻を除く方法は、従来からいくつも報告があります。私たちは、早速これらの方法を試してみましたが、共生藻を取り除くことはできませんでした(細谷浩史『太陽エネルギーで生きる動物』科学、二○○○年 岩波書店 参照)。 そこで、誰でも確実に共生藻を取り除くことができる方法を開発することが急務になりました。植物である共生藻に影響をあたえ、動物であるミドリゾウリムシへの影響は極力抑えること、この点を最も重要と考え、様々な検討を行った結果、除草剤の一種であるパラコートをミドリゾウリムシに作用させると、再現性よくミドリゾウリムシから共生藻を除去できることが分かりました(科学技術振興事業団さきがけ研究21)。本特許は、その方法の詳細を記述したものです。 太陽エネルギーで生きる「ミドリの牛」が作成できれば、地球環境の保護につながるかもしれない。何とかして高等動物に共生藻を共生させたい。本特許の誕生後、このような「夢」をみるようになりました。
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