PHOTO ESSAY -58-
キャンパスの生物


アカムシ
Halla okudai




アカムシ頭部の写真
突起状の感触手を立ててアサリの臭いがする方向を探しているところ



アカムシがアサリ(左端)に向かって移動しているところ


アカムシがアサリの殻に巻き付き捕獲しているところ


アカムシがアサリを摂食しているところ
殻の左上に伸びている糸状の物質は捕獲時に分泌された粘液で,
殻 の中にある白っぽい物質は摂食時に分泌された粘液である



文・写真斉藤 英俊
(Saito, Hidetoshi)
生物生産学部助手
 アカムシは,瀬戸内海や有明海の砂質干潟に生息している環形動物(ゴカイの仲間)です。その体長は日本に生息する環形動物の中では最大級であり,90pを越えるものもいます。筆者はこの海産無脊椎動物の摂食生態を研究するため,東広島キャンパス内で飼育しています。
 アカムシの食物は,生きたアサリなどの二枚貝です。一般に二枚貝を捕食する海産動物として,ヒトデやツメタガイがよく知られていますが,アカムシのような環形動物が二枚貝を捕食することは,世界的にみても非常にめずらしいです。アカムシは,アサリを発見すると,自らの体をアサリの殻の合わせ目に沿って巻き付けて捕獲します。しばらくしてアサリは殻を堅く閉ざして静止すると,アカムシは体表から大量の粘液を分泌し,アサリを覆ってしまいます。このようになったアサリはやがて殻を開け,アカムシはその隙間に頭部を入れ,引き続いて粘液を分泌しながら摂食を始めます。これらの粘液は摂食行動にとって重要な役割があり,捕獲時の分泌物は短時間に殻を開けさせるための麻痺成分を含み,また摂食時の分泌物は食物の迅速な消化を促進させるための消化酵素を含むことが明らかになっています。
 アカムシはその名のとおり美しい赤橙色をしていますが,皮膚に赤い色素を含む細胞が存在しており,生息条件が悪くなると,体表からこの色素を含んだ分泌物を出します。この赤い色素はハラクロムと呼ばれ,タコやイカの墨に似た成分(オルトキノン類)を持っています。一般にこの成分は魚類などにとって嗅覚を麻痺させたり,嫌な味がするので,外敵から身を守るのに役立つとされています。しかし,アカムシを釣餌として使うとマダイがよく釣れ,さらに都合のよいことに雑魚はほとんど釣れないことから,ハラクロムはマダイに対して逆に強い誘因効果があるのかもしれません。広島周辺の漁師は,この魔法の釣餌虫をタイムシと呼び,マダイ釣りに珍重しています。



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