特集
大学の授業を考える



 国立大学の「独立法人化」に象徴されるように,大学を取り巻く環境は極めて厳しいものとなっており,大学の最大の使命である「教育」の充実への期待と要望はますます高まっています。広島大学でも教育の充実を目指し,これまでさまざまな取り組みや改革が続けられてきました。
 広報委員会では,さらなる教育の充実推進のため,教育活動の中心である「授業」に関わる話題を紹介する特集を企画しました。本特集が,よりよい授業を模索するきっかけとなることを願っています。



新しい教養的教育の評価と今後への展望


 平成九年からの教養的教育改革は、それまでの「一般教育」とは異なり、「教養的教育」と「専門的教育」との有機的統合を目指すというものです(「広大フォーラム」の特集、二十八期四号、一九九六)。その後、よりよい授業を目指して、さまざまな観点からの分析や改善が続けられ今日に至っています。ここでは、新しい授業として創設された「教養ゼミ」と「パッケージ科目」を中心に、教養的教育の現状や今後への展望を考えてみました。

 平成十一年度に、教養的教育委員会教育方法研究小委員会が、初めて新しい教養的教育を受講した平成九年度入学生のうち、総合科学部、文学部、法学部、経済学部、生物生産学部に所属する全学生と、平成十一年度に入学した全学部生を対象に、本格的な「授業に関するアンケート調査」を実施し、その結果紹介と分析結果、授業改善に向けた提言が報告されました(教養的教育実施自己点検・評価報告書―豊かな学部教育をめざして―、以下「評価報告書」)。この報告書は二百ページを越えるもので、実施されたアンケートも綿密かつ慎重に吟味された項目で構成されており、教養的教育に対する学生の皆さんの評価、期待、希望などが示されています。


【教養ゼミ】

 大学での学習について理解をはかり、かつ、大学を使いこなすことを目的に、一クラス十人前後の少人数で所属学部の教官が担当するゼミ形式の授業です。各学部で実施された教養ゼミの内容や方法については、平成十年度に教養的教育委員会から詳しい報告があります(教養ゼミ実施報告書)。
 「評価報告書」では、教養ゼミの全体的な印象について、十一年度生(当時の一年生)では、「知り合いができたこと」、「教官とのコミュニケーション」の点では約七割が達成できたと感じている反面、「論理的な考え方」や「人にわかる文章を書く」については約四割ほどの理解にとどまり、この授業の目標が、十分に達成されていないと指摘されています。一方、九年度生(当時三年生)では、六割以上が「大学と高校までの学習方法の違い」を、十分、またはある程度まで理解できたとしていますが、「教官とのコミュニケーション」や「大学生活に役立った」については五割に満たない結果となっています。このことは、初めて開始された教養ゼミに対し、担当する教官、受講する学生双方に、とまどいもあり、手探りで授業を進めざるを得なかったことによるのかもしれません。
 そこで、教養ゼミについて、現在受講中の皆さんの声を聞くためにインタビューしたところ、次のような感想が返ってきました。
 楽しかった。
 よい勉強になった。
 少人数授業で取り組みやすかった。
 発表の仕方やレポートの書き方を学ぶことができた。
 インタビューしたほとんどの学生の皆さんが「楽しかった」、「ためになった」という感想をもっており、授業の目標は達成されていると判断されます。今年度で五年目を迎え、各種研修会などを通じて、担当教官にも教養ゼミの目標、指導法等について、よりよく理解されるようになったためと思われます。
 一方、「報告書」には、不満な点として、次のような意見もあげられています。
 教官によって充実度に差がある。
 グループによって違いがありすぎる。
 討論の仕方、レポートの書き方、プレゼンテーションの仕方など、もっと詳しく教えてほしかった。
また、現在の学生の皆さんへのインタビューからも
 本を読むだけでつまらなかった。
 教養ゼミは、調べること(宿題)が多く、時間に縛られるので不満だ。
のような感想もあがっています。これらは、担当教官の個性の違いによることも大きいと考えられますが、受講する側も、ただ受け身的に受講するのではなく、担当教官に対し、「わからなかったこと」、「知りたいこと」などの意見や希望を積極的に述べることで、解決できることも多いと考えられます。
 教養ゼミは、大学入学直後に、少人数、かつゼミ形式で実施されるため、きめ細かい指導が可能であり、それ以後の大学生活を有意義に過ごすためにも重要です。ちなみに「評価報告書」においても、教養ゼミは「今後、もっと充実すべき」との受講者からの意見が多勢を占めており、今後のさらなる発展・充実が期待されます。



【パッケージ別科目】


スペイン広場でインタビュー
 教養ゼミと同様に、九年度から開始された新しいタイプの授業で、人類や社会が直面している諸問題の理解と解決への道筋を考えるため、学際的な知的枠組みを提供し、多角的な見方・考え方を学ぶことを目標としています。 いくつかのパッケージが用意されており、受講者の希望に沿って選択できるよう設定されています。この授業の目標とするところは、二十一世紀を生きるために必要な素養であり十分な学習が望まれます。
 前記の「評価報告書」には、十一年度生について、パッケージの受講割合は、ほぼ同じですが、学部によって偏りがあり、やはり専門に近いパッケージを選ぶ傾向が指摘されています。また、希望に添って選択できた割合は六割強で、受講生の希望が十分には叶えられていないとされています。また、パッケージ内の授業の関連性について、「授業が相互に関連している」との印象を持った割合は二割程度であり、この授業の目玉の一つである「授業の関連性」は、達成不十分との指摘がなされています。九年度生についても、「関連性の理解」は二〜三割にとどまっています。このような状況において、「満足度」も三割未満と指摘されています。
 そこで、パッケージ別科目について、現在受講中の皆さんの声を聞くためのインタビューで返ってきた感想をいくつかあげてみます。
 授業によって面白いのと面白くないのがあった。
 入学してすぐ、わけのわからないうちに選択するのは困難である。
 授業科目同士の関連がわからない。
 パッケージ別科目をグループで分けるのではなくて、全部自由にとれるようにしてほしい。
 どうしても自分の全く興味のない科目まで履修しなければならない。興味のない科目はつまらないし、学ぶ意欲もなくなる。
 専門以外のことが学べておもしろい。ただ、専門的なことを言われても難しくて分からない。
 特に分かりにくいということはないが、聴講人数が多いので、授業に集中しづらい。
一般科目の中では、個別科目、特にパッケージ別科目に対して学生の皆さんの関心も高いと思われ、最も熱心な感想が返ってきました。その多くは、授業に対する希望に類するものでした。「評価報告書」にあげられている感想もこれらと概ね同様であり、五年目を迎えた現在でも、課題の克服は十分ではないように見受けられます。特に、目に付くものは、「パッケージ内の授業の関連性」に関する内容で、「評価報告書」でも指摘されているように、「関連性」に対し十分な理解がなされていないことがうかがわれます。複数の授業群で構成される科目において克服すべき課題の一つと思われます。
 また、パッケージを構成する授業の中に、自分が「興味が持てないもの」や「意欲が持てないもの」があるとの趣旨の意見も比較的多くあげられています。この点に関しては、現在学生の皆さんが持っている興味・関心にのみとどまることなく、「新しい視点」「新しい見方・考え方」を習得することも、大学の学習において必要かつ重要ですので、学生の皆さんには今少し、頑張ってみることも必要でしょう。それによって、興味や関心も広がり、深まりを増すことでしょう。
 パッケージ別科目について、今後、選択可能な範囲、時間割の設定などの工夫に加え、ガイダンスの工夫などで、授業の意図への理解を一層深めていくことで、より充実した授業が実現されると期待されます。


教養的教育のさらなる充実に向けて

文・於 保 幸 正(Oho,Yukimasa)
教養的教育委員会
教育方法研究小委員会委員長
総合科学部教授

 平成9年度からの教養的教育の改革は,それ以前に「一般教育」と呼ばれた教養教育の問題点を克服しようとするものでした。そのため,外国語などの授業科目の内容が大幅に変更され,また,教養ゼミやパッケージ別科目などの授業科目も新設されることになりました。この改革の実行と持続には実に多くのエネルギーが費やされてきました。
 教養的教育の実施組織としての教養的教育委員会の中には,カリキュラム編成小委員会と教育方法研究小委員会が設置されています。後者の小委員会は教養的教育の自己点検を行う機能をもつ委員会として考えられたもので,アンケート調査や履修状況の調査を行ってきました。これまでの調査では,教養的教育の全体的なシステム,あるいはカリキュラムにどのような問題点があるのか重点的に検討してきました(詳しくは,平成12年度の「教養的教育実施自己点検・評価報告書」)。最も重要な問題は,「学生は本学の教養的教育のねらいや目標を理解しているのであろうか」,「教員も共通認識をもって授業に臨んでいるのであろうか」ということです。授業方法や成績評価の問題も重要でありますが,同時に「教養的教育の趣旨」や「各授業の目的,目標」を学生にどう理解してもらうかを根本的に考え直すべき時期にきています。




新しい理念に基づいた専門教育の展開

 専門教育においても、充実化を目指した新しい取り組みが始まっています。ここでは医学部・歯学部、工学部および法学部・経済学部における新しい試みを紹介します。

 医 学 部 

文・碓 井   亞(Usui, Tuguru)
医学部教務委員長・医学部教授

 従来より医学教育の改革が検討されていましたが、特に医療事故がマスコミに大きく取り上げられ、社会からも改善を求められていました。それを受けてカリキュラムの改革―モデル・コア・カリキュラム(注1)ができあがりました(平成十三年三月)。これには医学・歯学の教育に必須なコアが設定され、学科目の枠を越えた新しいカリキュラムを各大学ごとに作ることが求められています。これを受けて医学科ではカリキュラム改革案を検討し、従来とは全く異なった講座の枠を越えたコースを設定すると共にチュートリアル教育(注2)を取り入れ、社会からの要請に十分応えられる体制を再構築すると共に、広島大学の特徴も示していきたいと思っております。
 文部科学省における教育の在り方に関する検討の経緯については、
 文部科学省ホームページ
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/index.htm)をご参照ください。

 歯 学 部   歯学部の専門教育改革

文・内 田   隆(Uchida, Takashi
歯学部学部教育検討委員長・歯学部教授

 歯学部の教育は、歯科医師国家試験に縛られており、全国の歯科大学や歯学部の教育内容には、レベルの差こそあれ大きな違いが無く、選択科目もわずかでした。これは、歯科医師養成という目的には合っていますが、歯科医学を継承・発展させる人材養成という視点が欠けています。さらに、歯学教育も従来の知識伝授型から問題解決型への転換を求められています。
 そこで広島大学歯学部では、平成十二年度入学生から最先端歯学研究コースと臨床歯科医学コースを開設しました。歯科医師養成に必要な教育は、共通コアカリキュラムで行うため、コース選択に関わりなく全学生が歯科医師免許を取得できます。最先端歯学研究コースでは、少人数教育をできる限り取り入れ、学部学生の段階で研究を開始して「研究とは何か」を理解させます。卒業後は大学院に進学して、研究を発展できる人材の養成を目的としています。臨床歯科医学コースでは、「患者を中心とする医療」を理解し、高度な知識・技術を背景に、地域医療でリーダーシップを発揮できる人材の養成を目的にしています。
 このようなコース制の採用は全国の歯科大学・歯学部では初めてです。現在、歯学教育にもモデル・コア・カリキュラム(注1)と大幅な選択科目の導入が計られていますが、広島大学歯学部の教育改革はその先鞭を付けたものといえます。

(注1)「モデル・コア・カリキュラム」
 医学・歯学教育におけるコアとなる洗練された基本的学習内容。

(注2)「チュートリアル教育」
 能動的教育といい、学生自身が疑問を解決して行く学習方法。生涯にわたり自ら課題を探求し、解決する能力を身につけるものである。


 工 学 部   創成型教育"Paper Bicycle Project"の実施

文・藤久保 昌 彦(Fujikubo, Masahiko)
大学院工学研究科教授


レース風景
 工学教育の目指すところは、単に専門知識や問題解決手法を伝授することではなく、学生が自ら問題を設定し、思考し、そして解決する知的活動の場を提供することで、将来の科学技術開発に必要な知的創造力を養うことだと思います。日本技術者教育認定機構(JABEE)でも、さまざまな知識を応用して問題解決をはかる能力の育成を、工学教育プログラムの最重要項目の一つにあげています。このような認識のもとに、私たちは、創成型教育"Paper Bicycle Project"(紙を用いて人が乗って走れる乗り物を設計・製作し、性能を競うプロジェクト)を昨年度から実施しています。ここでは、その内容と成果をご紹介します。
 まず、私たちは、"Paper Bicycle Project"を、PBL(Problem Based Learning)と位置付けました。PBLとは、製品や企業活動を対象とした問題設定解決型学習プログラムであり、Pには、Problem(問題設定)、Project(計画立案)、Process(思考)、People(チームワーキング)、Product(問題解決)の五つの意味が込められています。また、PBLには「動機づけ型」と「総括型」が考えられますが、私たちは、このプロジェクトを、四年生を対象とする「総括型教育」と位置付けました。即ち、過去の講義で得た知識・手法を駆使して課題に取り組むことにより、講義内容の理解を深め、その活用法を体得することを今一つの教育目標としました。授業の概要は、左記の通りです。
  • Paper Bicycleは、紙(厚紙および紙パイプ材)を主要材料として、人が一人乗って人力で前進・旋回できる乗り物とする。
  • 設計・製作は三〜五名のグループで行う。
  • 競技結果のみではなく、設計・製作の各プロセスにおける検討の密度と合理性を重視する。
  • このために、概念設計、詳細設計、製作、競技後総括の各節目ごとにプレゼンテーションを実施し、検討内容を報告させる。
  • 成績評価は、競技会とプレゼンテーションを基に行い、それぞれの比重を三対七とする。
 初回のプレゼンテーションは、内容、技術ともに未熟なものでしたが、複数のプレゼンテーションを通じて、その内容、技術および討論能力が飛躍的に向上しました。これは、教官の指導に加えて、互いのプレゼンテーションを観察し、学生間で切磋琢磨した効果が大きいと考えられます。また、授業開始当初は学生のアイデアの未熟さを感じた部分もありますが、最終的には、教官にも想像できなかった構造を成立させたグループがあったり、設計した構造の妥当性を検証するために、構造力学やFEM(Finite Element Method)を駆使するグループもありました。これらの解析は、講義のレベルを遥かに超えており、真剣に物事に取り組む時の学生の能力を再認識しました。授業実施後は、学生もプロジェクトの意義を認識したようであり、アンケートでは高い評価を得ることができました。今後も、内容、方法に改善を加えつつ、より高い教育効果を得られる授業としていく予定です。


 法学部・経済学部   軌道に乗りつつあるキャンパス間双方向遠隔授業

文・千 田   隆(Senda, Takashi)
経済学部助教授


双方向授業風景
 法学部と経済学部では、平成八年度から、東広島キャンパスの昼間コースと広島市内の東千田キャンパスに残った夜間主コースとの間で、キャンパス間ネットワークを利用した双方向遠隔授業(以下、「双方向授業」という。)を実施しています。平成十二年度までの五年間で、両学部合わせて教養的教育と専門教育で延べ三十科目(受講者数約二、七○○名)という実績を残しています。軌道に乗った感のある双方向授業ですが、さらなる改善を行うために、実際に授業を受けている学生にインタビューをしてみました。

いままで双方向授業を受講された感想をお聞かせください。
学生A 双方向授業は、東千田キャンパスの目玉商品ということで学生である私たちも大いに期待しています。以前は昼間の授業を受けるために東広島キャンパスまで少なからぬお金と時間をかけて通っていました。けれども、このシステムができてからは広島市を離れずに授業が受けられ、たいへん楽になりました。
学生B たしかに、このシステムのおかげで東広島キャンパスまで通うお金と時間を節約することができ喜んでいます。でも勘違いしてほしくないのですが、双方向授業は夜間の授業の代わりにはなりません。双方向授業ができた代わりに夜間の授業が減らされるのではないかと心配です。

双方向授業は始まったばかりですので、問題点がたくさんあると思います。双方向授業のどんなところを直してほしいと思われますか。
学生A 残念ながら、機械の故障が多いです。ある時は音声が聞こえなかったり、ある時は画像が写らなくて声だけ聴いて授業を受けたり…。新しいシステムなので大変だとは思いますが、音声と画像に問題があると授業を受けていても非常にストレスを感じます。
学生B 四月の初めには画像が鮮明で感動していたのですが、だんだん映像がくすんできて、最近は先生が黒板に書かれる字を判読するのが精一杯の状態です。
学生A あと、すべての双方向授業について補助員の方を送信する教室と受信する教室の両方に置いていただきたいです。送信する教室に補助員の方がおられない授業では先生が画面の切り替えの操作をされるのですが、このときパッ、パッ、と画面が切り替わるのでとても板書を写しづらいです。補助員の方がおられる授業では、補助員の方が画面切替の操作をなさるので、画面をゆっくりスクロールするなど配慮していただいています。また、受信する教室にも補助員の方がおられないと、機械が故障したときに困ります。授業中にシステムに異常が発生しても、私たちではどうすることもできません。
 これは一部の先生は既にされていることですが、授業が終わる毎に東千田で受講している学生に授業の感想を書かせてほしいと思います。私はよく「画面の切替が遅い」とか「声が聞こえにくいのでマイクを近づけて話してください」とか書いて出すのですが、ほとんどの場合、翌週の授業では改善されています。

最後に、双方向授業システムに対する御要望がありましたらお聞かせください。
学生A 現在、東千田キャンパスで双方向授業を受信可能な教室は一つ(二○二教室)しかありません。これを、法学部の教室、経済学部の教室、というように受信可能な教室を二つに増やしていただきたいと思います。
今後、皆さんが、より利用しやすくなるよう、一つ一つ改善していきたいと思います。本日は、貴重なご意見をどうもありがとうございました。





大学教育の評価

 広島大学の各部局では、「自己点検評価」、「学生による授業評価」に加えて今年度は理学部・理学研究科が初めて大学評価・学位授与機構による外部教育評価を受けることになりました。ここでは、理学部および文学部の外部教育評価について紹介するとともに、生物生産学部で実施された学生による授業評価の状況を紹介します。

 理 学 部   大学評価・学位授与機構にる大学評価(分野別教育評価「理学系」)への取り組みについて

文・清 水   洋(Shimizu,Hiroshi)
理学部・理学研究科 教育評価特別委員会
理学研究科教授


機器分析実習の一コマ
 大学評価・学位授与機構による大学評価が平成十二年度から着手され、分野別教育評価(理学系)の対象(全国で六機関)となった本理学部及び理学研究科の取り組みについて簡単にご紹介いたします。
 本研究科はこの評価に対応するため昨年、教育評価特別委員会(三名)を発足させ、自己点検・評価委員会と連携しつつ自己評価に取り組んでいます。一方、本学の新しい評価システムとして、広島大学評価委員会が昨年十月から活動を始めており、委員会の下に教育評価部会を置き「分野別教育評価(理学系)」についてワーキング・グループ(理学部・理学研究科教育評価特別委員会委員全員と他部局から四名)を設置しています。
 現況及び評価内容は次のとおりです。
 「教育目的及び目標に関する事前調査回答」は、既に四月に提出し、現在、理学部及び理学研究科それぞれの「自己評価書」作成に着手しています。自己評価書は、(一)対象組織の現況、(二)教育目的及び目標、(三)評価項目ごとの自己評価結果、(四)その他、から構成されます。(三)については、(1)アドミッション・ポリシー(学生受入方針)、(2)教育内容面での取組、(3)教育方法及び成績評価面での取組、(4)教育の達成状況、(5)学生に対する支援、(6)教育の質の向上及び改善のためのシステム、の六項目について評価の観点を設定し、自己評価結果を記述します。理学部及び理学研究科の教育の活動状況を資料としてとりまとめ、自己評価の根拠としています。
 本特別委員会及び自己点検・評価委員会を中心として、各学科、専攻及び事務部の協力体制のもとで、自己評価書の七月末提出に向けて精力的に取り組んでいます。
スケジュール
平成13年
 4月末  教育目的及び目標に関する事前調査回答
 7月末  自己評価書提出
 8月〜  書面調査及び訪問調査

平成14年
 1月  評価結果通知
 2月  意見の申し立て
 3月  評価結果の確定、公表


 文 学 部   文学部の改組とその評価について

文・水 田 英 実(Mizuta,Hidemi)
松 本 光 隆(Matsumoto,Mitsutaka)
大学院文学研究科教授

 広島大学文学部では、「人間学の回復」の理念のもとに平成九年に学部改組を行いました(下の表)。これにともない、教育システムも大きく変化し、入試も従来の専攻選抜方式から学部一括方式で選抜し、二年次に教育コースに分属させる方式となりました。一年次には、「教養ゼミ」「入門科目」を開講し、知的動機付けや専門科目の内容を紹介して、コース選択のための参考とすることを目指しています。また、教育コースにおいても、従来の専門の枠にとらわれない幅広い内容を覆う授業の設定などの改革が行われました。
 平成十二年度、学部改組の完成年度を迎え、文学部では四人の外部点検・評価委員を招いて、「学部改組に伴う教育システムの変化について」に関する外部点検・評価を受け、コース制についての学生の理解を深めるためにとして、左記のような勧告を受けました。
○教育コースにおいて共同研究、共同討議、共通テキスト作成などの実質的努力を行うこと
○きめ細かな履修指導などを行うこと
○学生の要望を加味した柔軟な教育コース分属方法を模索すること。
 また、授業やカリキュラムに対する評価として、文学部が継続的に行ってきた学生アンケートにより学生側の反応を絶えずフォローしてきたこと、従来型の学生に加え三年次編入学生、社会人入学、科目等履修生などの多様な学生が存在する現状に対して、幅広いカリキュラムを実現していることなどを評価されましたが、幅広いカリキュラムの反面、学部教育の「専門性」の稀薄化が指摘され、また、学生の学習意欲低下に関しては、授業をより魅力あるものにすることが必要であるとして、安易に内容を簡略にすることなく、教員の研究の進展を前提とし、それを分かり易く提供する授業を展開することが必要であるなどの勧告を受けました。
 上述の理念のもとに教育を行おうとしている本学部にとって、多様なニーズに対応すべくカリキュラムを整え、授業を実効ある形で実現することは、多くの困難が伴うと考えられますが、いずれも積極的に取り組むべき課題であると考えています。


 生物生産学部   学生による授業評価 ―生物生産学部での取り組み―

文・加 藤 範 久(Kato,Norihisa)
平成十二年度生物生産学部 教務委員長
生物生産学部教授


図2(クリックすると大きな画面で見られます)

図1
 生物生産学部では学生による授業 (講義) 評価を、学部内教官に昨年度から公表しました。参考までにこれまでの状況を紹介します。
 アンケートの内容については、十三項目について評価させていますが(学生自身の自己評価も含まれる)、他学部と大差はありません。総合科学部など他学部のこれまでのアンケートも参考にして、結果を図に示しました(図1)。これまでのものと決定的に違うのが、個々の授業科目の評価結果を教官に公表していることです。アンケートの実施は授業の最後に行い、学生が回収し、学生係に提出します。公表内容としては、個々の授業科目の総合評価の結果のみをメールで公表し、教官の間でチェックできるようにしています(最下位も分かる!)。
 発表データは、「5」の評価点を与えた学生数が何%、「4」が何%として、分布のみを発表しています(5段階評価で5が最高)。総合評価以外の項目についても学部全体と比べて、自分の授業の評価についてどの項目が優れ、あるいは劣っているか一目で分かるデータも各教官に提供されます。
 総合評価の評価点の分布(学生割合)を、全科目についてまとめたもの (平均値) を図2に示しました。前期では、約二○%の学生が最高点の「5」としていましたが、後期では約三○%へと増加しました。3点以下では三三%から二○%へと減少していました。前期と後期で同じ授業を比較するということではありませんので、厳密な比較はできませんが、明らかに評価が高まったといえます。また、その他すべての項目の評価(平均値)も同様に高まっていました。
 成績の甘い教官では、授業評価も甘いのでは? 流行の分野では面白いので評価も高いのでは? 授業が厳しい教官では、評価も低いのでは? これらを心配していましたが、評価点の上位と下位の科目のデータを比較すると、いずれもあまり関係がありませんでした。自由記述欄での不真面目な回答も心配していましたが、これも皆無でした。おそらく学生の名前を記入させたためか、ある程度責任を持って記入したのかもしれません(トラブルを避けるため記入者名の箇所を除いたアンケート用紙が教官の手元に戻ります)。高得点の授業(教官)に共通していることは、まず授業が分かりやすく、何らかの工夫がなされていることです。
 本学部では数年前から授業評価を行うことを奨励し、今回と同様なアンケートも学生係に用意されていました。これまでは強制ではありませんでしたが、昨年度はアンケートの実施をまず全員が実行し、お互いをチェックすることを最優先させました。アンケートの内容についても改善の余地があり、引き続き検討することにしています。授業評価を公表することのメリットは教官にたいして、ショックを与え、意識改革を迫るということです。後期では、授業評価が「不可?」の教官が直ちに激減したことに驚いています。
 近々、本学部のホームページの「やまもも」に、本学部の授業の改善についての詳しい解説を載せますのでそれを参照していただきたい。
http://home.hiroshima-u.ac.jp/seisei/menu/yamamo9/yamamomo.html




 授業の改善を目指し、昨年から開始された教授法研修会(FD)について高等教育研究開発センターからコメントをいただきました。さらに牟田学長から授業に関するコメントをいただきました。

 教授法研修会(FD) 

文・羽田 貴史(Hata,Takashi)
高等教育研究開発センター教授

 「FDってフロッピーディスクのこと?」というオヤジギャグはさすがにもう通用しないでしょう。学習指導要領の改訂などで学生の入学前学習歴が急速に変わるにつれ、ファカルティ・ディベロップメント(FD)の必要性は、大学教員の共通認識になり、その内容も、講演で意見を拝聴し、共通理解を図る段階から、授業そのものの改善に取り組み、組織としての教育能力を高めていく段階に移行しつつあります。しかし、第二ステージへの移行と実効性あるFDの実施はなかなか難しい。私立大学では和光大学などボランタリィーな授業作りが組織的に行われている事例もあり、国立大学でも京都大学のように先駆的に取り組んでいるところもありますが、組織的な活動への道のりはまだまだです。困難さを分析することはできても、それだけで物事は進みません。高等教育研究開発センターは、昨年から部局長会議及び事務局と連携して、新任教員研修会プログラムをスタートさせ、先生方の協力も得て、全院生向けのアカデミック・キャリアゼミと兼ねた授業参観も始めました(学校教育学部・林孝先生、理学部・草野完也先生)。今年も七月三日に総合科学部・浦先生の「こころと社会」を参観し、十九日には理学部・草野先生の「電磁気学」を参観する予定です(七月十二日現在)。浦先生の講義には、新任教員以外の方も含め、二十一名が参加しました。また、情報メディア教育研究センターの石井先生は、広島大学の知的財産として授業の録画を企画し、早速収録しました。終了後の懇談をもてなかったのは残念ですが、本学の教員にも授業改善への関心が広がっていることを実感しました。
 教育の質を改善する手段は多様であり、FDを「理念・目標や教育内容・方法についての組織的な研究・研修(ファカルティ・ディベロップメント)」(大学審議会答申一九九八)と見るのはあまりに狭く、サバティカル・イヤーや財政支援、教育業績の評価と考課への反映など「あらゆる方策や活動」が含まれるというのが常識です。しかし、形態は多様ではあっても、それを促進するポイントは、「大学教員としてのプライド、心意気」につきるでしょう。手弁当でもやる心意気の高さが、私学のFDでも重要な要素です。大学教育に問題があるからFDを推進するという「問題解決型」の迫り方もありますが、それだけでは教師のモチベーションは高くはなりません。教員として学生に学習することの面白さ、発見の喜びを共有することを追求するFDという迫り方もあるのです。授業参観は広島大学での面白い授業づくりの第一歩の可能性を感じさせました。


教養的教育は広島大学の宝物

文・牟 田 泰 三(Muta, Taizou)
広島大学長

 一般教育という言葉は今や死語と化しています。戦前華やかであった高等学校が,戦後間もなく廃止され,多くは新制大学の教養部となりました。明治以来培われた高い教養を目指した高等学校教育の良さを,新制大学の中で生かそうするものが一般教育であったと思われます。また,それと同時に,アメリカの大学におけるGeneral educationの考え方も一般教育の中に取り入れられました。
 私は,戦後の大学教育において,一般教育が果たしてきた役割はきわめて大きかったと思っています。しかしながら,長年のうちに初期の理念が見失われたり,授業が固定化したりして,一般教育に期待された本来の姿が,いくらか変わってきたことも事実です。そのような状況にあった平成3年(1991年)7月に,大学設置基準等が大幅改正され,学部教育(一般教育及び専門教育)の根本的な見直しが可能となりました。多くの大学では教養部を廃止するとともに,一般教育の実施体制を大幅に変更しました。この際,一般教育は,教養教育とか共通教育とかよばれる別の体系で置き換えられることとなりました。
 本学では,すでに教養部を改組して総合科学部を創設し,一般教育は総合科学部において行われていました。この点が,他大学とは決定的に違うところです(東大は別として)。当時,学長補佐をしていた私は,本学では,学部教育の見直しに際しても,この特長を何とか生かせないだろうかと考えていました。学長補佐会でも,この考えに沿った意見を述べました。大学計画委員会の答申も同様の考え方でした。それから2年間,教養的教育検討委員会特別委員会で精力的な準備作業が行われ,私も,この特別委員会の副委員長及び委員長として働き,総合科学部を主たる担当部局とする教養的教育の全学担当計画をまとめ上げることができました。
 本学が総合研究大学として,日本の大学の中核的な役割を果たすためには,その基礎となる学部教育,とりわけ教養的教育がしっかりしていることが不可欠です。本学の教養的教育は,まだまだ改善点は多いとはいえ,日本の大学における教養教育のお手本であると思います。教養的教育は広島大学の宝物です。大切に育て上げたいと思っています。



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