特集

広大における 多様性・開放性


 広島大学は、そのあるべき将来像ならびに大学のアイデンティティを求めてこの10年余りいろいろ模索を重ねてきました。その過程ではっきりしてきたことは、広島大学が多様性と開放性を持たなければならないということでした。それを受けて本学では、可能な限り入学者選抜方法を多様化し、受験生に多くの機会を提供すると共に、高年齢の方々を含めた社会人、更には外国人にも広く門戸を開放することにより、様々な経歴をもつ意欲ある人達を多数受け入れています。また、他方、これまで広大が行ってきた開放事業としてオープン・キャンパス、模擬授業、公開講座などに加えて、まだ始まったばかりですが、高校生に対する授業公開があります。これは、大学側が高校生に対してその講義等を開放することにより、高校と大学の間の連携を強め、さらに発展させようというものです。「広大における多様性・開放性」を考えるために、第一部では先ず本学で実施している多様な入学者選抜方法の概要について述べ、それを通して合格された皆さんに寄稿頂き、第二部では高校−広島大学連携に関連したいくつかの例を紹介します。


1.入学者選抜から見る

広島大学の新たな発展に向けて、過渡期にある入学者選抜

文・岩 田 光 晴
アドミッションセンター助教授

●多様な能力やキャリアを持つ人材を受け入れる

 今年四月、広島大学への入学者は編入学生の百三十五名を加えると約四千名になります。その多くは約二千五百名の学部生ですが、近年目立って増えてきているのが大学院生(博士課程前期・博士課程)で、約千三百五十名と全体の三割以上を占めるようになってきています。「三人に一人が大学院生」ということは、総合研究大学としての人材確保ができてきているともいえます。
 入学者は、日本全国の高校を卒業した十代の若者から、他大学・短期大学の出身者、仕事を抱えている社会人、六十歳を越える高齢者まで、幅広い地域の出身者や年齢層がいます。また、大学院生を中心に百十一名の外国人留学生が含まれています。その半数は中国人ですが、国籍はアジア・北南米・アフリカ・東欧など二十一ヶ国にもなり、平和を希求する国際都市広島の象徴でもあります。
 社会人の受入れだけでなく、フェニックス入学制度で高齢者を受け入れるなど、受け入れ年齢幅の広さは日本でも例を見ません。今年度の入学者の中には、この制度を新聞で知り、わざわざ愛知県から来ている男性や、若い時代に大学に行けずに新たに入学している女性もいます。生涯にわたっての学習機会を用意できていることは、これからの高齢化社会に新しいキャリアモデルを提示することにつながるといえます。

●多彩な受け入れ先と、様々な入学者選抜方法を用意

 広島大学は、十学部十研究科と主要な学際領域を網羅していますが、募集段階では学部は学科・類やコースで三十七の教育組織に、大学院は四十四専攻(さらには専修など)に細分化されています。
 入学者選抜方法も多岐にわたり、学部の募集においては九通りの方法が用意されています。具体的には、(1)一般選抜前期日程 (2)一般選抜後期日程 (3)推薦入学 (4)アドミッション・オフィス方式選抜(AO入試)(5)専門高校・総合学科卒業生選抜 (6)帰国子女特別選抜 (7)中国引揚者等子女特別選抜 (8)社会人特別選抜 (9)アドミッション・オフィス方式選抜(高齢者対象フェニックス入学制度)で、これらから、各募集教育組織が三〜五の方法を取り入れ多様な人材を獲得しています。
 また学部入学と同様に、社会人特別選抜や高齢者対象のフェニックス特別選抜は大学院(博士課程、博士課程前期・後期)の募集(四月入学・十月入学)でも取り入れられ、通常の一般選抜と併せて各研究科・専攻で実施されています。さらに大学院独自の選抜方法として、海外からの留学生を積極的に獲得するため、外国人留学生特別選抜も設けられています。
 また、編入学制度も九学部二十三の募集教育組織で実施され、拡大の方向にあります。広島大学では、実に様々な入学機会を提供できているといえます。

●良質な入学者(=人材)の獲得は教育効果をあげる最大のポイント

 少子化・高校教育の改革など変化する若年層の募集環境への対応や、社会人・高齢者などの新たな層の受け入れに向けて、新しい発想を持って、独自の人材獲得方法を編み出していくことがますます重要になってきています。
 広島大学では、多様なキャリアを持つ人材を多岐にわたる選抜で獲得していることが大きな特徴ですが、それを存分に発揮していくために重要となるのが、明確な「アドミッションポリシー」です。それぞれの教育組織が独自の教育目標に基づいた入学者像と受け入れ方針を持ち、適切な選抜方法で人材を獲得していくことが、教育目標を達成し、大学の個性化を進めていく第一歩になります。
 選抜方法の基準として、各教育組織で学ぶための「基礎学力」は入学の必要条件ですが、従来の一方的な学力選抜型だけでなく、入学への意欲や専門分野のセンスを確かめ、「相互理解」を推進する総合選抜型を実践してこそ、オリジナリティーが生まれていくことになります。
 また、入学者選抜は大学の教育目標や内容を知らせる「最大の広報ツール」でもあります。偏差値や社会的イメージなどで大学・大学院が選ばれる傾向がある中、選抜方法の意図や背景、さらに大学の教育内容を積極的に伝えるなど、広島大学の入学希望者と理解者を増やしていく広報戦略も、今後ますます重要となってきます。

●大学の「本気」が問われている

 希望の大学に入学するために受験生は必死になって傾向と対策を講じてきます。高校現場では、平成十六年度入試から導入される五教科七科目に対応した教育カリキュラムや、土曜日や夏休みを返上した補習等の計画を実行しています。また最近では、社会人入学のための予備校なども存在しています。
 今まで、大学の入学者選抜は受験生や様々な関係機関に大きな影響力を持っていました。しかし、今後はそのパワーバランスも変化してくることが予測されます。だからこそ、個人のキャリアや地域・社会における大学の存在価値を再認識した上で、新しい入学制度や選抜方法を検討していく必要があります。国立大学法人化が進められている現在、それは大学の「本気」を伝えていく絶好の機会でもあります。

●AO入試は広島大学にどんな効果をもたらすことができるか?

 平成十四年度から、全学部の十六教育組織がアドミッション・オフィス方式選抜(AO入試)を導入しましたが、そこには、今後の入学者選抜方法の改善に対する三つのヒントがあります。
 まず、全ての募集教育組織がアドミッションポリシーと求める人物像を見直す機会になったことです。この重要性は前述の部分で記しているとおりです。
 次はそれに関連していることですが、「面接」をより重視しているところです。今までには無い「経験やキャリア」などの新たな評価軸の検討や「個性のある人物を見る力」をつける必要性がでてきました。
 三つ目は、「プロセス重視型の選抜」であることです。AO入試合格者の多くは広島大学を第一志望としており、志望理由書や課題レポートの作成など、受験プロセスを通して、自分を振リかえる機会を得て、自分の成長を感じている人が多いという結果が見られました。
 「絶えざる自己変革」を理念に持つ広島大学は、常に新しい入学者選抜に取り組んできました。本来、入学者選抜の改革は「教育」と「就職・進路」を視野に入れた検討が必要です。大学を取り巻く環境が変化している今こそ、大学の新たな発展に向けて、それらを再度整理する時期かもしれません。

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