特集 広大における 多様性・開放性
2.高校-大学連携から見る




高校生に対する授業公開
前川 功一 (広島大学副学長)

 中央教育審議会答申(平成十一年十二月十六日)の中で、高校と大学の連携(高大連携)を推進するよう勧告がなされ、それを受けて広島県内の大学や短大が加盟している広島県高等教育機関等連絡協議会と広島県教育委員会との間で高大連携を推進するための包括協定がこの三月に締結されました。
 さらに現在、協議会と県内各市の市教委及び私立高校との高大連携も準備中です。各大学は県教委に公開できる授業リストを提出し、県教委は県内の高校に対して募集をかけるという方式で、四月から協議会加盟の各大学が、県内の高校生に対して大学がおこなう講義を公開したり、公開講座を開講しています。高校生が受講した大学の講義は、高校側の判断により高校の修得単位とすることができます。広島大学では、高校生が受講しやすい九・十時限の時間帯または土・日ないしは夏休み期間中に、公開授業は十六科目、公開講座は三講座を開講することになりました。これらの科目、講座に対して高校からの受講生は公開授業に八十九名、公開講座に六十二名です。また、広島市内の高校生が受講できるよう、一部の講義は東広島キャンパスと東千田キャンパスを結び、双方向授業で行っています。
 この高大連携事業が今後高校生の間に浸透していくにつれ受講者も増加し、公開授業によって、高校生が知的刺激を受け、受講生の各大学に対する関心が高まることが期待されます。

大学生と一緒に授業を受ける高校生
 高校生に公開している本学の授業のなかで、教育学部の「自然システムの理解(生物学)」(池田秀雄教授担当)に参加している十名余りの高校生にインタビューした結果をまとめてみました。

 公開授業に参加した動機は?「先生に勧められて、大学の雰囲気に慣れるため、進路を決める参考にするため参加しました」授業の印象または感想は?「おもしろい、実物を使った授業は興味をひかれる、もっと話ばかりしているのかと思っていたので、印象が違った」公開授業に対する要望は?「高校で七時間目を終わってからくるので九十分授業は少し疲れる、もっといろんな科目でやって欲しい、高校ではできない奇想天外な講義を聞きたい」などなど。
 最後に:「高校生が参加することにより教室に活気がうまれ、大学生にもよい刺激となっているようだ」ということを、担当教官からうかがいました(広報委員会)。




模擬授業
佐野(藤田)眞理子 (総合科学部教授)

模擬授業の一コマ(写真:中国新聞社提供)
 高校生が大学進学を考える時、何百という大学の中から、何を基準に志望校を選び、学びたい分野を決めていくのでしょうか?広島大学では、高校―大学の連携を図り、情報交換の一環として、オープン・キャンパス等の機会に、高校生のキャンパス訪問を歓迎しています。同様に、大学の教員が高等学校へ出かけていって、大学で普段行っている授業を紹介することもしています。
 私は、昨年の秋、広島県立尾道東高校の二年生二百七十七人を対象とした「学問研究講座」(模擬授業)に行ってきました。当日は、本学の他、県内の四大学から合計十一名の大学教員が招かれ、それぞれの専門分野での講義を行いました。講義名と専門分野はあらかじめ知らされていて、高校生は、その中から興味がある講義を選びました。私の専門分野は、文化人類学で、「同じ現象でも違って見える:文化人類学と異文化理解」という講義をしてきました。日米の保育園のビデオを用いて、背後にある文化体系が、日本人とアメリカ人の持つ「子ども観」「しつけ観」にどのような影響を与えるのかを中心に話しました。 異文化を付き合わせることによって見えてくる文化の相対性、つまり、私達が「常識」としていることも、特定の文化によって構築されたものであるということに気がついて欲しかったわけです。高校生は、日常の行動の中に見られる文化の違いをビデオを通してみることができたので、熱心に聞いてくれました。文化人類学という大学でしか学べない専門分野を知る一助となりました。
 このような模擬授業を通して、高校生が、自分で情報を集め、学びたい分野を主体的に選び、大学で学ぶことの意味を考えてくれることを願っています。




模擬授業
迫原 修治 (大学院工学研究科教授)

模擬授業の一コマ
 高校生に進路を考える際の参考にさせたい、知的好奇心を持たせたいなどの高等学校の要望に応じて、本学から学部説明あるいは模擬授業に出向いています。高等学校は二つの学部の説明または模擬授業を希望できますが、平成十三年度は三十二校から要望があり、このうち模擬授業については二十二校で、延べ三十八回行われました。私も福山誠之館高校への模擬授業と海田高校への学部説明に出向きました。ここでは、福山誠之館高校での模擬授業の様子を紹介します。  誠之館高校からは法学部と工学部の模擬授業の希望があり、昨年六月に工学部の担当として私が出かけました。進路指導の先生が非常に熱心で、事前の打ち合わせもていねいでした。午後四時から理科系志望の三年生の生徒約四十名に一時間の講義をしました。まず、工学部の概要を十五分程度紹介し、その後「環境に応答するゲル」と題して約三十分の講義と残り十五分で簡単な実験を行いました。教頭先生と数名の先生も聞いておられましたが、生徒達が非常に礼儀正しく熱心に聞いてくれるのに正直驚きました。最後に質問が二つあり、生徒代表によるお礼の言葉もありました。進路指導の先生によると、生徒達に講義の内容に関して予習をさせておいたということでした。ただ、今回は前日が文化祭で、その準備等で十分な予習ができなかったことを残念がっておられました。後日、数名の生徒から授業の要約と感想が送られてきましたが、講義のポイントが非常に要領よくまとめられており、感心しました。模擬授業を業者が企画しているところもあるようですが、誠之館高校のように独自にさまざまな工夫をされている高等学校からの要望には本学としても応えていく必要があると感じました。



夏期公開講座
松本 堯生 (大学院理学研究科教授)

公開講座風景
 理学部数学教室では、平成四年度に公開講座を始めました。平成五年度から平成十年度はいわゆる教育上の例外措置と関連して別に「高校生のための現代数学入門講座」を実施してきましたが、平成十一年度からはこの二つを統合し、高校生を主な対象とする無料の公開講座「数学の基礎と展望」を夏休みの二日間で実施しています。また平成六年からは、松本が主となって数学合宿も実施しています。これらの事業には総合科学部数学系教官、附属高校教諭、公立高校教諭、私立高校教諭などの協力を得ています。さらに、ここ二年間は県教育委員会が実施している数学コンクールにもこれらの連携を基礎に協力しており、本年度は観音高校総合学科で出張講義もある予定です。
 最近の公開講座の内容を紹介しておくと、一昨年は「インターネットを支える暗号技術(渡辺芳明)、力学系とフラクタル(宍倉光広)、アミダくじと組み紐群(蟹江幸博)、カオス(太田隆夫)」、昨年は「地球の内部を知る数学(磯祐介)、数学で解き明かす感染症の流行と進化(梯正之)、小さな波の数学(山田道夫)、データの持つ情報を探る(若木宏文)」でした。今年は八月一日・二日開催で、内容は「1+1=0 の数学とその計算機への応用(松本眞)、折り紙の数理(川崎敏和)、衛星データの解析(西井龍映)、金融デリバティブって必ず儲かるの?(岩田耕一郎)」の予定です。「数学は時代遅れの役に立たないマニアックな趣味ではなく、先端科学で非常に有用である」、「折り鶴の数理は数学の醍醐味をあなたの頭にずーーっとしみ込ませる」が今年のうたい文句です。いくつかの高校からは先生の引率でほぼ毎年数名の学生が参加してくれています。


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