特集 外国人教員による大学比較
Portugal ポルトガル・カトリカ大学


知は力なり
文・ピントドスサントス,J.M.
( PINTO DOSSANTOS, J.M.)
経済学部応用経済学講座助教授



教養ゼミの授業風景

 私は、学部教育をポルトガル・カトリカ大学(Universidade Catica Portuguesa)の社会科学学部で受けました。この学部は法律・経済・経営の三コースからなり、各コースの学生定員は一学年百四十人、学部全体で一学年四百二十人程度でした。学部のカリキュラムは五年間で卒業できるように編成されていました。学生は一学期に五科目(一科目は週に九十分授業が二コマ)を履修しなければなりませんでした。日本の大学と異なりポルトガル・カトリカ大学社会科学学部では、一年生から四年生までの授業はすべて必修科目で学生に選択の余地はありませんでした。最終学年の五年生になって初めて自由選択科目を履修することができました。
 広島大学で教鞭をとるようになって一番戸惑ったことは、日本社会が大学に求めているものとポルトガル社会が大学に求めているものとの間に差があるということでした。ポルトガルには"Knowledge is the basis of power."(「知は力なり」)という社会通念があります。これは「たとえ仕事に直接的には役立たない知識であったとしても、そうした知識を習得することは無駄にはならない」という考え方を含んでいます。ですから、ポルトガルの社会は、大学に対して、実務的なものだけでなく理論的・抽象的なものをも積極的に教育することを期待しています。これに対して、日本の社会は実践的・事例的な知識を大学教育に求める傾向が強いように感じます。
 ポルトガルの大学の特徴として、学生間の競争を引き出す教育システムが挙げられます。成績評価は、「優」「良」「可」「不可」といった大まかな四段階評価ではなく、一〜二十の二十段階で評価されます。そして、成績は名前とともに掲示で発表されます。また、学業成績は、奨学金給付や授業料免除の決定に直結しています。さらに、就職活動の際、ポルトガルの企業は、学生の大学での学業成績を最重要視して採用不採用を決定します。日本の大学教育の優れている点は、学生同士のチームワークの大切さを重視していることにあると思います。課題演習は、しばしば個人個人に対してでなく、チームに対して課せられます。課題を与えられたチームは協力してその問題の解決にあたるわけですが、その過程で共同作業の大切さを学ぶことができます。また、さまざまな勉強会や研究会において、ある科目が得意な学生が不得意な学生に勉強を教えたり、先輩が後輩に学業や就職活動などについてアドバイスをしたりしているようです。
 広島大学が、トップクラスにある世界の大学と比較して、同程度かそれ以上であると考えられる点は少なくありません。まず、広島大学は、世界でも有数の美しいキャンパスを東広島市に持っています。また、広島大学には非常に使い勝手の良い附属図書館があります。附属図書館が所有している蔵書はとても充実しています。さらに、附属図書館の電子化が急速に進んでおり、今後ますます利用しやすくなるであろうと期待されます。以上述べましたように、広島大学は、美しいキャンパス・充実した附属図書館・少なくない教官研究費等、施設や設備といったハードの面を中心として既に世界でもトップクラスにあると思います。この世界トップクラスのハード面を基礎とし、そしてソフト面に若干の手を加えることによって、広島大学はさらに大きく飛躍することができると思います。


(聞き手・千田 隆)


プロフィール
1985年 ポルトガル・カトリカ大学社会科学学部卒業
1995年 広島大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士課程後期修了
同 年 広島大学経済学部講師
2000年 同助教授
担当授業:証券市場論、企業ファイナンス論 (経済学部、大学院社会科学研究科マネジメント専攻)

ポルトガル・カトリカ大学のホームページ http://www.ucp.pt/



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